- not understand -
過酷な環境下を生き抜く能力と、あらゆる武器を扱う技術。そして、《宝探し屋》としての膨大な知識。
小さい頃から、ずっと全部を身に付ける為、訓練してきた。
周りを囲むのは大人たちで、友達と言う存在は殆ど皆無に近い。
だからこそ、皆守や八千穂、取手と知り合えてとても嬉しかった。まだ転校(潜入と言った方が正解なのだが)してから二日しかないけれど、友達になれた気がして。
けれど、
「あんな事言うなんて、ひどいじゃないかッ!!」
いら立ちを隠さないまま、暁斗は自室に帰るなり背負っていたデイバックを振り上げてベットへと投げた。勢い良く壁に激突すると、それはずり落ちてシーツの上でバウンドする。
「何が何も出来ないだ、取手自身で解決するべき問題だ。…寂しいじゃないかッ」
取手は皆守とは良く話すと言っていたし、皆守も取手を保健室仲間と称していた。だから暁斗は仲がいいんだなと思いつつ、うらやましかった。なのに、皆守は苦しんでいる取手を言葉で突き放した。たとえ言っている事が正しいとしても、暁斗は許せなかった。
自分だったら、出来る事を探して見つけたらすぐに実行したい。もし、ないとしても側にいて少しでも支えてやりたい。誰かが側にいてくれるのは、時にはとても心強く感じるもので、独りでいるのは、時にはとても寂しいものだ。取手は今、独りだ。人を遠ざけて、自ら孤独になろうとしている。そんなの、放っておける訳がない。
絶対、力になってやるんだから。
暁斗は制服を脱ぎ捨てるとクローゼットから服を取り出した。黒く伸縮自在で熱さ寒さにも耐えられる特殊なそれを着込むと、続いてアサルトベストを着た。しっかりチャックを閉めてきつくないように整える。
そして、ベットの下に手を入れ、空間の半分は埋まるジュラルミン製のケースを出した。開け口に付けられた機械を操作して、鍵を解除すると蓋を開ける。そこには銃器に爆弾、ナイフなど一般の人が見たらかなりの確率で驚く武器の数々が収められていた。
暁斗はMP5A4マシンガンを肩にかけ、腰にコンバットナイフを、そして太もものホルスターに古いハンドガンを装備する。バックパックに、持てるだけのマガジン(弾倉)と探索時に必要な道具を入れると背負った。
最後に顔の上半分を覆う暗視ゴーグルをつけ、HANTと連結させる。ブン、と小さな起動音と共に視界内に緑の蛍光色が様々な情報を浮かび上がらせる。HANTのキーボードを叩き、情報を整理すると一旦電源を切った。
これで準備は完了だ。あとは陽が沈むのを待って墓地に侵入すればいい。暁斗はベットに座った。時間が過ぎるのをじっと待つ。
『取手の問題は取手自身でしか解決できないさ。取手の過去に何があろうが、どんな傷を抱えていようが、他人には所詮関係ない』
頭の中に、皆守の言葉が鮮明によみがえる。なんであんな事を言うんだろう。暁斗には理解出来なかった。
小さい頃からずっと訓練を続けてきた。沢山怪我もしたし、怒鳴られた事もある。その度に、こんな環境からは逃げ出したいと、夜一人で、毛布にくるまり声を殺して泣いたりもした。けれど、実行しなかったのは、暁斗自身がとても弱いからだ。慣れぬ環境、違う文化、生活。その中で逃げ出しても、自分が生き残れる自信はない。気がつけば、誰かに助けられている。人は独りで生きる事がとても難しいから。頑張って、頑張って、頑張ってきて、ここまで来れたのも、周りに助けてくれる人がいるからだ。
だから、余計に皆守の言葉は寂しいと暁斗は思った。あの、乾いた砂のような眼をした男は、一体何をその眼に映しているのか。
「ッ?」
手の中でHANTが振動し、電子音でアヴェ・マリアの旋律を奏でる。誰かがメールを送信して来たのだ。暁斗は思案を中止させると、HANTを開いてメール画面を呼び出した。
差出人の名前を読んで驚く。
「−皆守…!?」
さっき喧嘩別れしたばかりの人物からのメールに、動揺しながら本文を読む。そして、呆れた。
本文は短い文章だったが、さらに要約するとこうだった。
さっきは悪かった。気が向いたら呼んでくれ。
素っ気無い文章。訳も分からず暁斗はベットに倒れこんだ。
「訳わからねェ…」
本当に関係ないなんて思うなら、どうしてそんなメールを送る? 疑問が駆け巡るが、まだ同世代との付き合いになれていない暁斗の頭では解決しそうもない。しばらくそのままの状態で自問自答を続けたが、やがて答えを導き出すのは断念し、目の前の事に集中する事にした。
何を考えているか分からない。
理解、出来ない。
髪を掻きむしり、暁斗は起き上がると窓を見た。太陽はほぼ沈み、名残りが空を明るくさせていた。開けっ放しだったケースからロープを取り出すと、寮を抜け出す準備を始める。
淡々と準備をしながらも、心の中は皆守に対する疑問があった。
理解出来ない。そう思うと同時に理解したいとも思った。
あの眼を思い浮かべると、何故か少し、心が苦しくなった。
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