降り続けていた雨は止み、雲が細切れになって流れていく。窓から空を見上げ、暁斗はチャイムを聞いた。今日の授業はこれでお仕舞いになる。
 最後の授業を終えて、担当の教師が出ていくのと入れ代わりに、雛川が教室に入り教卓の前につく。彼女は朝礼と同じく、クラス中が騒いでいるファントムに対する注意を繰り返した。
 雛川には、何者かに攫われ、利用された記憶も新しいのだろう。彼女は学園の闇に敏感になってきている。
 これからは、雛川にも注意を払う必要があるだろう。自分が巻いた種だとは言え、増えていく苦労に、自然と気が滅入った。
「----それでは今日はこれで終わります。みんな気をつけて帰ってね」
 雛川が教室から出ていく。一日の授業を終えて、同級生たちはめいめいに鞄を持ち、部活や帰路につく。暁斗もデイバックの口を開き、ノートや筆箱を入れながら帰る準備を進めていた。
「ふあぁあ」と後ろから大きな欠伸が聞こえる。
「甲……。もう少し人目を気にしろよな」
 暁斗は苦笑しながら後ろを振り向いた。ゆらゆらと口に銜えたアロマプロップを揺らして、皆守が眠そうに暁斗を見る。
 今日の午後は雨が降ったお陰で屋上が使えなくなり、保健室は瑞麗不在の為、入る事すらかなわない。結果、皆守はなし崩しに授業を受ける形になっていた。
 皆守はもう一度大きく欠伸をしながら、鞄を持って立つ。それに倣うように暁斗も立ってデイバッグを背負った。
「うるせぇな。眠いんだから仕方ないだろ。雨も上がったんだからとっとと帰って一眠りしてやる」
「……お前なぁ」
 どこまでも睡眠を貪る事にこだわる皆守に暁斗は呆れた。その横に、皆守の声が聞こえていたのか、同じく呆れた八千穂が暁斗の隣に立ち、
「あたしいっつも不思議だったんだけどさ」
「何だよ」
「皆守クンって、毎日こんなに早く帰って何してるの?」
 尤もな質問だった。帰宅部とは言え、やろうと思えば、色んな事が可能になる。グラウンドの片隅でサッカーに興じたり、中庭で友人と他愛無い話をしたり、マミーズで早めの夕食を、なんてことも帰宅部ならではだろう。だが、暁斗の知る限り、皆守は時たまマミーズに行く時と遺跡に連れていく時以外、何処かに行く所を滅多に見ない。
 だから改めて話題に昇ると、どうしても気になってしまう。関心が高まり暁斗も皆守の答えを待った。
 皆守は答えるのも面倒くさそうに、
「何ってそりゃあ……。昼寝とか」
「とか?」
「--------昼寝とか」
「うっわ、信じらんない!」
 八千穂が呆れる。
「ホンット不健康なんだから!」
「……俺が健康だろうと不健康だろうと、お前らには関係ない」
 そう言って、皆守はポケットからジッポを取り出すと、予めアロマプロップに差し込んでおいたラベンダーのスティックに火をつけた。煙を燻らせて、香りを吸いながら、
「それに人にはそれぞれ自分の生活ペースってもんがあるんだ。なぁ、暁斗」
「皆守のペースは酷すぎると思う」
 寝て、起きて、カレー。それらを繰り返すのは、さすがにどうかと暁斗は思う。
「だらけてばっかりだと足腰弱くなるよ、いつか」
「何だよ、お前だって夜な夜な怪し気な散歩に出かけているだろ。人の事は言えないな」
「……」
 図星をつかれ、暁斗は反論出来なくなる。面白くなくて、暁斗は皆守をじろりと睨んだ。
 八千穂が左手を腰に当て胸を反らし、右手で皆守を指差す。
「そんなひねくれた事ばかり言わないで皆守クンも色んな事にチャレンジすればいいじゃない」
「チャレンジねぇ……。なら今度試してみるか。一日何時間眠れるか」
 やっぱり眠る事に括る皆守に、暁斗はまたそんな事を言って、とたしなめようと口を開きかける。
 その瞬間、ぱぁん、と乾いた銃声が鳴り響き、続いて男の悲鳴が折り重なった。
 三人は身を固くする。
「な、何、今の?」
 八千穂が驚きながら言った。遺跡で暁斗が放つ銃声に慣れている彼女に怯えの色はない。どちらかと言うと、学園であり得ない音が聞こえた事に困惑している。
「そう、遠くじゃないみたいだな」
 皆守が冷静に廊下の方を見た。
「行こう」
 暁斗が素早い身のこなしで教室を出ていく。皆守たちも鞄を引っ付かむと、急いで暁斗の後を追っていった。


 毎日登下校で昇り降りする階段の踊り場が、異様な光景に包まれていた。踞り、目頭を押さえる男子生徒。指の間から流れた血が落ち、床を汚している。その赤さに、傍らで壁に背を凭れるように立っているもう一人の男子生徒は、震えながらそれを見下ろしていた。
 漂う、硝煙の匂い。学園には不向きなそれに、駆けつけた暁斗と皆守は顔を見合わせる。二人の間から物々しい現場を見て、「うわ……」と八千穂が声を漏らした。
「……何が《執行委員》……、生徒会だよッ。俺はただちょっと文句を言っただけなのに……!」
 怪我を負った男子生徒は、いきなり標的にされたショックと、一方的な制裁に生徒会への怒りを募らせる。涙が、血と混じり赤い水となって落ちていく。
「しっかりしろ」
 暁斗は階段を降り、男子生徒の横へ膝をつく。皆守も続けて降りてきて、青ざめ立ち尽くしたままの男子生徒に、
「お前は撃ったやつを見たのか?」
 尋ねた。
「お、俺は何も知らないッ。黒い影みたいな物がちょっと見えただけで……。何処から何が飛んで来たかも分からねえよッ!」
 大声で喚く男子生徒に皆守は、「駄目だ、こりゃあ」と呟く。怪我をした方も、それを見た方も両方我を無くしてパニックになっている。怯えて、現実から眼を反らして、事実を認識したくない。
 撃たれた男子生徒が、「眼が」と訴える。
「--------大丈夫だ。顳かみを掠れただけで、血が眼に入っただけだ」
 階段の上から影が伸び、暁斗と撃たれた男子生徒を隠す。「あっ」と八千穂が驚く声が聞こえた。
「いつまでもぼおっとしていないで、とにかく保健室へ運んでやれ」
「でも、こいつを助けたら、俺まで生徒会に----」
「そんな事を言ってる場合か!」
 鋭い叱責に、立ちすくんだ男子生徒が、さらに肩を震わせ小さくなる。まるで、蛇に睨まれた蛙のようだった。
「目の前に傷付いた同級生がいる。助けてやるのが人間ってもんだろ」
「……周りに生徒会の人間はいない。早く行った方がいい」
 男子生徒らが動きやすいよう、暁斗がそう促すと、青ざめた男子生徒は白い顔色のまま、撃たれた同級生を助け起こした。「大丈夫か」とこわごわしながらも肩を支えて、二人は保健室へと降りていく。
 階段を見上げた皆守が、眉間に皺を寄せ、
「----大和」
 現れて来た夕薙を呼んだ。
「よぉ、全くここは相変わらず賑やかな学校だな」
 夕薙は笑いながら階段を降りてくる。八千穂も彼の後を追いながら、感心した様子で言った。
「夕薙クン凄いね。どうして掠っただけだって分かったの?」
「一応心得があるからな。それにしても」
 鼻をひくつかせ、夕薙は、
「随分物騒な匂いが漂っているな」
「何だよ。俺には何も臭わないぜ」
 アロマプロップを手に持ち替え、皆守は鼻を動かすが、すぐに首を捻った。
 夕薙は皆守を茶化すように笑い、
「甲太郎の鼻は、カレーとラベンダーの違いしか分からないからな」
「……勝手に言ってろ。----で、結局なんなんだ?」
「----硝煙、だよ」
 暁斗の口から、答えが滑り落ちる。銃をいつも身につけ、扱う人間にとっては、慣れすぎた匂いは、ここではありえないもの。
「ああ、そうだ」と夕薙が、同意した。
「どれだけ腕に自身があるか知らないが、こんな放課後の学校で、銃を振り回す人間が、正常な法の執行者であるとは到底思えない。葉佩、君は今の《生徒会》のやり方に賛同出来るかい?」
「……出来る訳、ないだろう」
 暁斗は夕薙を睨む。余裕のある笑みが、勘に触った。
「いくら何でも、これはやりすぎだ……」
 単に驚かせたり怯えさせたりするのとは訳が違う。狙いを定めさえすれば、簡単に命を奪える銃での狙撃。今までとは明らかに一線を超えている。
「そうだな」と夕薙は頷いた。
「《生徒会》が真に学園の生徒の為の組織なら、こんな暴挙に出ないはずだ」
「ねぇ」と鞄を掛け直しながら、八千穂が辺りを見回した。
「生徒が危機になれば、ファントムが来るんだよね。何で来ないんだろう。もしかして、あたしたちがいるからかな?」
「どうだろうな。ただ見た者たちの話から察するに、まるでいつも影から様子を見たかのような早さで駆け付けるようだが」
「……夕薙。お前、何を知っているんだ?」
 夕薙は『学園の謎を知っているはずだ』と白岐を追い、事ある毎に暁斗へ意味真な言葉を残す。なるで暁斗を《遺跡》に向けて進むよう、仕向けているような----。
「大和、いい加減にしろ」
 皆守が暁斗の腕を掴み、そのまま後ろに追いやると、夕薙と暁斗の間に入った。不快を露にし、夕薙を見据える。
「暁斗を焚き付けてどうするつもりだ。学園の禁忌に近づけば、待っているのは《生徒会》による処罰だけだ。いくら《転校生》とは言え、命を賭けるものなんてないだろ」
「それは葉佩の決める事であって、甲太郎には関係ない事だ」
 夕薙はあくまで自分の意見を曲げない。皆守の、暁斗の腕を掴む力が強くなる。暁斗は皆守の背中を見た。良く見なければ分からないが、彼は確かに震えている。
「……なら、大和だって同じ事だろう?」
 不穏な空気が、二人を包み込んだ。
「ちょ、ちょっと! どうしちゃったの二人とも? 何だか変だよ」
 敏感に雰囲気を察知して、八千穂が二人を諌める。
「……」
 皆守が口を閉じ、夕薙から視線を反らした。暁斗から手を離す。解放された腕は、まだ痛んだ。きっと袖を捲ってみたら、赤く手形がついているだろう。
 夕薙が顎を撫でる。
「確かに、葉佩の事で俺たちが口論するのもおかしな話だな」
 そして八千穂に毒気を抜かれたのか、夕薙はそれ以上話を続けようとはしなかった。未だに警戒を解かない皆守に苦笑しつつも、階段の手すりに手を掛ける。
「それじゃあ、俺は行くとするよ。ああ、そうだ。甲太郎----」
「……何だよ」
「たまにはカレー以外も食えよ?」
「余計なお世話だッ!」
 皆守は声を荒げたが、八千穂も「それは言えてる」と笑われ、不機嫌にアロマプロップを銜える。
 一人暁斗だけが、ぼんやりと皆守の背を見つめていた。どうして皆守はさっき震えていたのか。
「葉佩の活躍を楽しみにしているよ」
 言い残し、夕薙が階段を降りていく。踊り場に残った三人は、しばらく静かにその場に立ったまま、夕薙の足音を聞いていた。
 硝煙の匂いは空気に薄れ、流れ落ちていた血だけが、騒動の名残りを醸し出している。
「……《生徒会》、か……」
 八千穂が沈黙を破る。暁斗と皆守は彼女を一斉に見た。
「確かに約束事は必要だし、それを破る人にはお仕置きも必要かもしれないけど、でもだからってここまでする必要があるのかな? ……《生徒会》って本当は何なの……?」
 尤もな疑問だと暁斗は思った。《生徒会》は墓地の下に眠る遺跡を守る為に動いている。処罰を受けるのは遺跡に近づく者だけで、言い換えればそれを侵さない限り、危険は及ばない。
 だが、今はどうだ。ただ少し時間が過ぎても話をしたり、軽い文句を口に昇らせただけで、銃口が向けられてしまう。誰だってその状況を目の当たりにすれば、八千穂と同じ事を思うに違いない。
「八千穂」
 暁斗は首を横に振った。彼女を否定する訳ではない。その身を案じての事だ。もしかしたらこの瞬間にも、何処からか銃口が向けられているかもしれない。
「……あっ」
 下校のチャイムが鳴った。これより先は、すぐ校舎から出ないと、容赦なく処罰対象になってしまう。誰からともなく階段を降り始め、暁斗たちはその場を後にする。
「あのね二人とも、あんまり危ない事に首を突っ込んだりしたら駄目だよ?」
 一番前を歩いていた八千穂が、前を向いたまま言った。
「暁斗クンも、……気をつけてよね」
「ああ。……オレだって八千穂を悲しませたくないから。ちゃんと気をつけるよ」
 明るくて活発で、友達思いで、何事にも実直で。暁斗はそんな八千穂が大切だった。出来るならその瞳を悲しみで曇らせたくない。
「……うんっ」
 気持ちが通じて、八千穂は嬉しそうに振り向いて嬉しそうに笑った。
「じゃああたし、部活があるから……行くねっ」
 スカートを翻し、二人の先を走っていった八千穂を、暁斗は見送る。物音が遠ざかり、聞こえなくなると、それを見計らったように暁斗の後ろを歩いていた皆守が口を開く。
「《生徒会》は本当は何なのか、か……」
「……甲?」
 どうかしたのか、と言いかけた暁斗を遮り、何処からか音楽が鳴り響いた。皆守の携帯電話の着信音。
 皆守が制服のポケットに手を突っ込む。取り出した携帯電話から、静寂の校内を突き破る音楽が流れている。
「……メールか」
 携帯電話を開き、ボタンを操作した皆守の顔色が僅かに陰った。
「甲?」
「----悪いが用が出来た」
「え」
 皆守が携帯を仕舞う。
「俺もお前と一緒に帰ろうと思っていたが、悪いな。もう下校の鐘が鳴ってる。俺に構わず校舎を出ろ。いいな」
「いいな----って、甲はどうするんだよ」
 このまま放課後を過ぎた校内にいたら、皆守が処罰されてしまう。無慈悲に撃たれてしまった皆守を思わず想像してしまい、暁斗は鼻を啜る。そんなのは嫌だ。掌で泣きそうに熱い瞼を押さえる。
「……そんな顔をするな。良いから行け。俺も用が済んだらすぐに行く」
 皆守が暁斗の肩を軽く押し出した。不安な暁斗を安心させるように微笑む。
「お前が校舎を出る事には追い付くさ。気をつけていけ、暁斗。……急いでな」
 有無を言わさない皆守に、暁斗は従うほかなかった。
「お前も、早く追い付けよ」
 涙目で言い残し、暁斗は後ろ髪引かれながらも、階段を掛け降りていく。


 一人残った皆守は、メールを開いた液晶画面を凝視して、
「……あいつ、一体何をする気だ?」
 呟き、苦渋に顔を顰めた。



 皆守に「早く校舎から出ろ」とは言われたが、暁斗は途中真理野と出会してしまい、大幅なタイムロスを強いられてしまった。別れた時にはもう校舎の鐘がなってから大分経つ。
 暁斗は焦りつつ、廊下を走った。先生たちもいないので、職員室の前でも足音を忍ばせず、走り過ぎていく。雛川がいたら、直ぐさま怒られてしまいそうだ。心の中で手を合わせて謝り、昇降口へ駆け込む。もしかしたら、真理野と話している間にも、皆守はもう校舎を出ているかもしれない。
 上靴を脱いで、投げ込むように靴箱に入れると、すぐに床に落とした靴に履き替える。デイバックを背負い直して、再び始めようとした。
「校則で定められた下校の時刻はとうに過ぎているぞ。《転校生》----」
「----------ッ」
 威圧的な声が、暁斗の脚を絡めとった。恐る恐る振り向くと、何時からそこにいたのか、真後ろに黒いコートの男が立っていた。薄く青い瞳が暁斗を射抜く。
 暁斗は身を翻し、男と向き合う。ただそれだけで、身体が震え上がった。油断するな、隙を見せるな。《宝探し屋》としての本能が、警告を発している。
「……それがお前流の挨拶か」
 睨み付けてくる暁斗に、男は微かに口を上げる。
「こうして顔を合わせるのは初めてだな、葉佩暁斗。俺の名は阿門帝等。この天香学園の《生徒会長》を勤めている」
「阿門……帝等……。お前が生徒会長」
 まさか《生徒会》の長が直々に挨拶に来るなんて。範疇外の出来事に、暁斗は身を固くする。さすが《生徒会》の長だけあって、彼には一部の隙もなかった。コートのポケットに手を突っ込み、立っているだけなのに。
「……どうして今、オレに会いにきたんだ?」
「お前には聞いておかねばならない事がある」
 阿門は眼光を鋭くする。額に青く血管が浮かび上がる。
「お前は《墓》で何を見た?」
「……お前に言う義理はない」
 言ったところで阿門が『はいそうですか』とあっさり引き下がる訳がない。
「そうか。お前はしらを切る気なのだな」
「何を」
「まぁ、いい」
 阿門は薄らと笑う。だが、すぐにそれは消えた。
「----だがこれ以上進めば《生徒会》は葉佩----お前を不穏分子と見なし、相対せねばならない」
「……」
「俺の忠告に従うも従わざるも、お前の自由だ。さぁ、どうする? 《転校生》----」
「----オレは」
 暁斗は阿門から目を反らさず、真直ぐ見据えて言った。
「お前の忠告には従えない」
 阿門の目が細まる。
「……お前ら《生徒会》が譲れないものがあるように、オレにだって同じ譲れないものがあるんだ。だから、従わない」
 《宝探し屋》として自分の元にある任務は、成し遂げたい。そして遺跡の謎を解きあかしたい情熱や、《力》が無くとも、闇に囚われた人たちを助けたいと思いも。確かに暁斗の中で息づいている。
 阿門は暁斗を見返したまま、しばらく黙していたが、
「----そうか。それがお前の選択か」
 何かに納得し、頷いた。
「だが、気をつけるがいい。今度墓に入るような事があれば、その時はお前の身の保証は出来ん」
「肝に命じておくよ」
「……では残り少ない学園生活を有意義に楽しむ事だ。また会おう----」
 コートの裾を翻し、阿門は静かに暁斗に背中を向けると、歩いていく。それでも威圧感は変わらず、暁斗は一歩も動けない。ようやく姿が消えた事を確認して、ようやく硬直を解かした。
 心臓の音が落ち着かない。
 阿門が、《生徒会》の長と言うのも頷けた。《執行委員》の奴らよりも、数倍《力》が上のように感じた。もしかしたら、まだ秘めた《力》を隠しているのかも、知れない。
 いつか倒さなければならない相手。
 暁斗は知らず震えていた手を握りしめた。そのまま胸元まで上げて、シャツを掴む。深呼吸を繰り返し、落ち着きを取り戻してから、校舎を出た。
 どんな相手と相見えようと、自分は立ち向かっていかなければならない。墓を暴き立て、奥へ進んでいく咎も、受け止めなければ。
 その為にも、暁斗は立ち止まる訳には行かなかった。

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