吹き荒ぶ風が、窓をけたたましく叩いた。硝子が大きな音を立て、僕は俯き固くつむっていた瞼を開ける。
 しっかり鍵を閉めた窓は、あまりの風の強さに開き、容赦なく部屋に凄まじい風を招き入れていた。荒々しくカーテンが巻き上がり、弄ぶように翻させる。
 ひゅうお、と鋭く風を切る音が耳を掠めた。
 シーツを頭から被り、寝台に座り込む僕は、焦点の合わない眼にじっとこちらを見上げる人間を映す。夜の暗闇と、仮面を被っているせいでそれが誰なのか分からないが、ほんの僅かに開いている仮面の隙間から覗く、深い闇色の眼がこちらを見ている事だけは分かった。微かに動揺しているように、揺らめいている。
 黒と白、そして流れる血を連想させる赤い線が入り交じった装束を身に纏うその人は小振りの刀を握っていた。冷たい星の光を受けたように、冴え冴えと光る刀身についているのは、血。切っ先から赤い雫が滴り、ぽたりぽたりと床へ落ちて汚していく。
 そして、前に立ち塞がるその人の向こう側に、倒れてぴくりとも動かない人影が二つ。
 もしかして、刀に付いている血は、その人たちの。
 風が吹いた。
 千切れる勢いで揺れるカーテンが僕の視界を遮り、五月蝿い風切り音が、目の前に居る人の、確かに呟いた言葉を掻き消す。
 眼を瞬かせて、僕は怖さを今自分が置かれている状況も忘れ、聞き返した。何故だか分からないけど、聞いておかなきゃいけない気がして。
 だけど、返事は返ってこない。苦しむように、その人は頭を押えて軽く横に振る。
 何か迷っている仕草に、僕は身を乗り出し、その人は弾かれるように面を上げた。
 前触れもなく握られた刀が上がり、ぴたりと静止したかと思ったら、すぐに振り下ろされる。
 ----僕めがけて。
 眼前に迫る刃に、僕は強く瞼を閉じる。

 -----そして、



06/07/15