単純な奴 皆守+葉佩

 

 昼近くの四時間目。教師の都合で合同になった、三年C組とA組が一緒の体育は今一番の盛り上がりを見せ、体育館は異様な熱気を醸し出している。
 片面のコートで、バレーの試合をしていた女子生徒らは、一旦手を止めて男子たちがいるコートへと向かうと、床に座ったり壇上に腰を掛けたりなどして、これから始まることの見学にしゃれこむ。それに参加しない男子も、コート内にいる人物の姿に興味津々な様子だ。
 コートの中央で、向かい合っているのは、C組の転校生葉佩暁斗。そしてもう一人はA組ではあまり目立つほうではないがバスケの腕は誰もが認める力量を持っている取手鎌治。
 暁斗はバスケットボールを片手に勝ち気に笑った。
「覚悟はいいか? 手加減しないぞ」
「それはこっちの台詞だよ。僕だって遠慮はしない。全力でいかせてもらうよ。君が相手なんだから」
「−上等」
 試合前の高揚感。引かずに堂々と宣言する取手に満足して頷くと、暁斗はボールを審判に投げる。いよいよ試合が始まるらしい。
「−あっきとクーン! 頑張れ−!! 取手クンも負けるな−!!」
 八千穂の元気で大きい声援が響く。
 五月蝿いぐらいに元気だな、アイツは。ただ一人冷めた顔してゴールポストの下に立っていた皆守は、ラベンダーの香りを吸い込んで眠たげに欠伸をする。あまり大きいものではなかったが、敏感に暁斗が反応して、すぐに振り向く。
「皆守ぃ! 緊張感ないことするなっ。気が抜けるだろ!」
 たちまち高揚感を削がれ、暁斗は憤然と噛み付く勢いで吠える。
「もっと真剣にやってくれ」
「真剣ねぇ…。俺にとっちゃこうしてコートの中にいるだけでも大したもんだと思うがな」
「ダメダメ、全っ然ダメ」
 横に首を振り、暁斗は皆守の側まで寄ると、そっと彼に耳打ちする。
「勝ってくんなきゃダメなんだよ。こんなにギャラリーいるんだからさ、目立とうよ」
「俺は目立ちたくない」
 寧ろ、ひっそりしてたいのが皆守の本音だが、暁斗が聞く様子はない。
「そんなこと言わずにさぁ。な?」
「………取手になんて言われた」
「俺が買ったら昼飯奢るって。でもこっちが負けたら音楽室の掃除一週間」
「………」
 それぐらいの賭け事でこんなに燃える友人に、皆守は呆れた。単純だ。分かっていたが。
「な、頼むよ。勝ったらカレー奢ったるから」
 しまいには両手をあわせて頼み込む暁斗に、皆守は考え込む振りをして口を開いた。
「二日分な」
 一気に暁斗が明るくなる。そしてきつく皆守の背中を叩き、「交渉成立だな。頼むぜ!」とはにかむと取手と審判が待つセンターの方へと戻っていった。
 浮かれる背中に、皆守は単純だと改めて思った。自分が損していることに気付いていない。試合がどう転んでも、結局暁斗は何らかの事をしないといけないのだ。勝っても皆守にカレーを奢り、負けたら掃除が一週間待っている。
 だけど、皆守にとっては幸運だ。勝てば、今日と明日の昼食代が浮かせるから。
 それじゃ、適度に頑張るか。ポケットにしまっていた手を出し前を向く。その視線の先には、単純な友人が試合開始のホイッスルを楽しげに待っていた。

 


04/09/29

 



ひとときの休息 皆守+葉佩

 

 毛布にくるまり、昼下がりの睡眠を保健室のベットの中で皆守が貪っていると、ふと後ろで何かが背中に触れたのを感じる。それはもぞもぞと動き、今まで貯えていた毛布の中の温もりを奪いながら背中にぴったりとくっ付いていた。
 男一人入っただけでも狭いベットがさらに窮屈になって、眉をしかめると瞼を開けた。わざわざこんな事をする奴は一人しか思い浮かばない。
 肘をつき、上体を起こして後ろを見る。そして、溜め息をついた。
「………」
 そこには暁斗が、皆守の背中に顔を埋める状態で寝息を立てていた。ちなみに、隣のベットは空いている。分かっていて彼は皆守のいるベットへと潜り込んだのだ。彼曰く、『オレは皆守の近くにいるのが一番安心するから』なのだそうだが、張本人にしては昼寝を邪魔されて迷惑だった。
 皆守は暁斗を起こさないまま、彼の身体を脇へと押した。大した抵抗もなく、転がり、そして間抜けな音を立てて床へと落ちていく。やけに生々しい音だな。皆守がぼんやり思っていると、隙間から手が伸びてシーツを掴んだ。
「皆守ぃ〜」
 ぶつけて赤くなった鼻を押さえて、暁斗が皆守を鋭く睨む。
「いきなり何するんだよ。鼻血が出るかと思ったじゃないか」
「俺の寝床に勝手に入り込むほうが悪いだろ」
「…。保健室のベットは皆の物です。ルイ先生にどやされるぞ」
「なら、お前も同罪だな。え、昼寝同盟の片割れが」
「オレはいいんですー」
 投げやりに言って、暁斗は反対側のベットに後ろから倒れこんだ。スプリングが軋んで、からだが軽く跳ねる。
「毎晩毎晩遺跡の探索だからさぁ、眠気も絶好調なんだよね。こんなんで五時間目なんか受けたら寝る。絶対寝る」
「俺は、お前のそれに毎晩のように付き合わされてるんだが」
「化人と戦っている間うとうとしてる奴に言われたかな…、〜ふぁああ」
 最後は欠伸に声がかき消し、暁斗は大きく伸びをして身体を弛緩させる。手を使わず靴を脱ぎ、そのまま足の甲で毛布を掬い上げると頭からそれをかぶった。
「とりあえず、寝るわ。ルイ先生が来たら起こしてな」
「お、おいっ」
 冗談じゃない。俺だってこれから寝るんだぞ。反論が口から出かかっているのに、
「………」
 一足早く、暁斗は夢の中へと旅立ってしまった。止めようと伸ばした手が、虚しい。
「…。あー、くそっ」
 叩き起こしたかったが、暁斗の苦労は皆守も知っている。昼間は学生。夜は《宝探し屋》の仕事。いつ彼の身体が休息を取っているのか、誰も知らない。
 仕方ない。皆守は伸ばした手を引き戻し、毛布を手繰り寄せ、暁斗から視線を反らすように背を向けると、毛布をかぶった。

 

「保健室はお前らの安息所ではないのだがな」
 瑞麗は火を着けたばかりのキセルを手にベットを見た。とうに五時間目のチャイムは鳴っていたが、本来なら教室で授業を受けている筈の姿に苦笑を禁じ得ない。
「いつも好き勝手に使ってるんだ。起きたら、雑用でもしてもらおうか」
 小さく一人ごちると、まるで聞こえているかのようにタイミング良く暁斗が低く唸り返した。ますます瑞麗の笑みは深くなる。
「まぁいい、疲れてるのだからな。特別に見逃してやろう。ゆっくり休め《宝探し屋》君」
 カーテンが締められて、足音が遠ざかっていく。
 多忙な日常から区切られ、切り離された静かな空間の中、二つの寝息はとても気持ち良さそうに響いた。



04/09/29

 

 

きみの助けになれるなら 取手+葉佩

 

 朝。登校時間に規則正しく学校に来て、上履きに履き替えた取手は、ふと校庭へと眼をやり、下駄箱に靴を入れようとした手を止めた。
「…暁斗君?」
 沢山の生徒がいたが、すぐに見つける事が出来たのは暁斗の姿。彼はとても見つけやすい。よくくるくる変わる表情と一緒で、動きにも感情が出やすい。俯いて前を見ず、拳を固く握った両手を振り上げるようにして進んでいる今は何だか哀しそうに見えた。
 何かあったのだろうか。取手は心配になって、靴をまた床に置いた。もし、相談出来る事があるのなら、真っ先に聞いてやりたい。深い心の闇に捕われた自分を救ってくれた暁斗。取手は彼の為にやれるなら、何でもやってやりたいと思っていた。嫌な事があったのなら、それを払ってやりたいし、助けたい。それに彼にとって、暁斗の助けになれる事はこの上なく幸せなのだ。
 彼の笑う顔が見たい。
 決心して取手は靴をまた履き替え向かう時、不意に暁斗が顔を上げた。取手と眼が合う。そして見る間に泣きそうに顔を歪めた。
「−取手ぇ!」
 鍛え上げられた俊足で走ってきて、暁斗は取手に抱き着いた。走ってきた勢いもプラスされ、身体が後ろに仰け反る。咄嗟に持ち前の長い腕を使って、近くの柱で支えて持ちこたえられたが、この腕の中にある温もりに持ちこたえられるかは分からない。
 抱きかかえたままの状態で床に座り込んでしまうと、心臓が一気に早く高鳴るのが分かった。
「あっ、暁斗君。どうしたんだい?」
「あっ、あの、あのなっ」
 暁斗は取手に説明しようとするが、混乱していて上手く言葉が紡げないでいる。口をぱくつかせて息を詰まらせる暁斗に、取手は優しく微笑むと彼の背中を優しく叩いた。
「落ち着いて。ちゃんと待って君の話を聞くから。ほら、深呼吸」
 促すとそのまま手を上下に動かして背中を擦ってやる。ゆっくりと暁斗の緊張を解きほぐしている間、横を同級生らが同情混じりの温かい眼をして通り過ぎていく。それを見送りながら、ずっと待って暁斗から原因を聞きだせたのは、予鈴が鳴る四分前だった。
「オレは不良じゃないっての! 真里野や墨木をのした訳でもないし、神鳳を舎弟だなんて思ってないし!! それに双木はまだいいとして、…朱堂を弄んで捨てただなんて………! ………」
 最後のくだりは心底否定するように低く呟いて、暁斗は潤んだ瞳で取手を見つめた。
「…なぁ、オレ不良じゃないよな。な?」
 大半の生徒らは、暁斗の正体や彼が何をしているのか知らない。《生徒会》とも戦っている事もある。その結果が元となって、不良呼ばわりされるのは、暁斗にとっては衝撃的だったらしい。
 だが、取手はちゃんと分かっている。暁斗は自身の持つ勇気と情熱、そしてとても暖かい優しい強さをもってして、呪われた力を持つ人たちを救ってきた。だから皆その優しさに惹かれ、彼を慕う。
 例え、彼の事を知らない人間が何と言おうとも、きっと直ぐに返せる。
「君はそんなんじゃないよ。−暖かくて、優しくて、とても頼りがいのある、」
 たったひとりの尊い。
「存在だよ」
 噛み締めるようにして暁斗に伝えると、彼は眼を丸くしてから直ぐに赤くなった。
「なんかそう言う風に言われると、それはそれで恥ずかしいな…」
「本当の事だから」
 少なくとも暁斗に救われた人たちは皆そう思っている。取手自身も。
 二人の頭上を予鈴の鐘が通り過ぎていく。もうすぐ朝礼が始まるだろう。
 取手は暁斗を立たせると、起き上がり手を差し伸べた。
「さぁ、行こう。遅刻してしまうよ」
「おう…」
 戸惑いながら暁斗は取手の手を取った。二人はゆっくりと歩き始める。
「…あのさ、取手」
 階段を昇る途中、珍しく本気で照れたような小さな声で、暁斗は言った。
「…ありがとな」

 うれしい。と取手は思った。
 胸の中が、とても暖かくなった。



04/09/30

 

 

とまどい 皆守葉佩

 初めて入った暁斗の部屋は、火薬の匂いがした。
 部屋に一歩足を踏み入れてその独特な匂いに、皆守は立ち止まりくわえていたパイプを外すと鼻をひくつかせる。
「おい、何だこの匂いは」
 暁斗はきょとんと眼を丸くしてから、すぐにその理由に思い当たり立ち上がり、カーテンを引いたまま窓だけを全開にする。九月下旬のだんだん冬に近づく冷たい空気が部屋の中にあった温もりを下から追い出していく。
「ごめんごめん。さっき銃の手入れや弾を見てたんだ。片づけはしたんだけど、匂い残ってたんだな」
 暁斗は舌を出して笑った。
「オレは、慣れてるからあんまり分からなかったけど。お前からすれば、嫌なもんだよな」
「いや、そんな事はないが」
 寧ろこっちは、一日アロマを吸い、ラベンダーの香りを纏わりつかせている人間だ。他に香りや匂いをまき散らす奴がいても反論はしない。例えそれが、火薬や硝煙と言った『普通の高校生』とは懸け離れたものだとしても。
「ここ、座っていいか?」
 目線だけで暁斗の机に納まっていた椅子を見る。
「ああ、全然オッケー」
 そう了承を受けて椅子に座ると、皆守は床に座り込みHANTを起動させる暁斗を見た。蛍光色の文字が浮かび上がる画面の中、羅列した英語を真剣な読んでいる。
 こんな時、暁斗は普通とは違う種類の人間だと思う。
 昼間はあんなに八千穂と一緒に馬鹿騒ぎして、自分に抱き着きたがる人間だ。授業をサボろうとすると、何処までも刷り込みをされたひよこのように後をついてきて、一緒に帰るかと誘うと、それはもう嬉しそうに満面の笑みをする。
 なのに、だ。遺跡に関わる時だけ、暁斗はその姿を隠してしまう。まるで仮面を剥ぎ取って、本来の姿に戻ったように。鋭い光を眼に浮かべ、冷静に行動する。
 どちらが、本当の暁斗なんだろうか。
 皆守は手を伸ばした。直ぐ近くにある暁斗の頭に触れる。癖っけのある、黒い髪が指の間を通っていった。
「み、皆守?」
 突然で予想しなかった皆守の行動に、暁斗は戸惑いながら見上げてくる。もし、昼間だったら喜んで飛びついてくるだろうに。
 これが、本当の反応なのかもしれない。
「どうしたんだよ、いきなり。…珍しいな」
「いいや、なんでもない」
 少しだけ頬を赤くして訝しがる暁斗は、何処にでもいる高校生に見えて。皆守は何故か安心してまた頭をくしゃりと撫でた。



04/10/03

 

 

リラックス 皆守葉佩

「あのな、思うんだけども」
「あァ?」
 けだるく返すと、すぐ近くで大きく開かれた眼が見上げてくる。それはもう、鬱陶しいぐらいに近く。
「皆守はアロマを吸って落ち着くんだよな」
「…まぁな」
「八千穂は、テニスしてたり身体動かしているとスッキリするって言ってた」
「アイツらしいな」
「人それぞれ、気分転換の方法って違うってもんだよな」
 深く頷く暁斗を皆守はじっと見下ろす。旋毛が頭の天辺に見えてきつく指先で押さえてやろうかと思った。出来ないのが口惜しいが。
「でな」
「うん、なに?」
「何でお前は俺に抱き着いてるんだ」
 しかも腰に。巻き付くように。
 お陰で睨んでも視線が頭に刺さるだけで、当の本人は痛くも痒くもない。
「だって、これがオレの気分転換だもーん」
「…お前な」
「あぁ、落ち着く」
 さらにぎゅうと力を込めて、暁斗は皆守に鼻をすり寄せる。服の生地を通り抜けて感じる生暖かい温もりがくすぐったくてしょうがない。
 どうやって抜け出せばいいのか考える皆守には、今は到底リラックス出来そうになかった。



04/10/06

 

 

まもりたい 取手葉佩

 最後の一音が消えると、取手は静かに鍵盤から指を離す。軽く息を吐いてそろそろとピアノを撫でた。
 姉がいなくなってからは、あまりピアノを弾こうとは思わなかったけど、今はとても楽しい。自分の指から生まれる旋律。その一つ一つが組合わさって、音楽になる。
 そう思えるようになったのも、あの出会いがあってこそ。だから、感謝せずにはいられない。
 取手は視線を下ろして、ピアノの脇を見た。そこには脚に凭れて、眠っている暁斗がいる。先程まで取手はピアノを弾き、音と振動が彼女の頭に伝わっていたが、起きる気配を見せない。ぐがががと色気のない鼾をかいていると、頭が前に揺らめいた。
 危ない。反射的に取手は手を伸ばす。常人より長い手を持っている彼にとっては、造作もなく暁斗の身体を支えられた。ゆっくり起こさないようにまた元の位置に頭を戻してやる。暁斗の寝息が聞こえると、薄く笑みを敷いて手を離した。
 初めて逢った、大切な人。
 何があっても、護りたい、存在。
「…僕は、何があっても、君を護るから」
 呟いて取手はまた鍵盤に指を乗せた。


04/10/11

 

 

愛の逃避行 皆守葉佩

 昼休みの食事を求め、廊下に出ている学生の群れ。その間を縫うように暁斗は走っていた。短距離選手のごとく、結構な早さを出しているが、持ち前の運動能力で人とぶつかる事はない。
「いい加減、観念したらどうッ、暁斗ちゃんッ!!」
 暁斗の背中をおぞましきオカマの声が襲ってくる。相手は言わずがもがなだ。そちらも陸上部で鍛えた俊足をフルに活用している。それは美男子を追い掛ける時に威力が倍増するので始末が悪い。性別を誤魔化している暁斗にとっては、理不尽な仕打ちを受けているように感じる。
「誰が観念するか、このオカマがッ。オレはお前の愛を受ける気なんぞ、毛頭無いッ! 余所を当たれ、余所をッ!!」
「あら、照れ屋さんね。大丈夫よ、私は浮気なんてしないからッ」
「自分の良い様に解釈を曲げるなッ!!」
 突き当たりを曲って、階段を飛び、踊り場に着地する。それを二度繰り返し、一階分下におりると辺りを見回した。
 ここは二階。右側を行けば二年生の教室。左を行けば特別教室が並ぶ場所へと出る。
 どっちだ。どっちに行くべきか。
 暁斗が迷う暇などなかった。後ろから迫りくるオカマの声。
 忌々しく舌打ちをすると、徐に開いていた真正面の窓から、身体を乗り出した。下の窓は運の良い事に開いている。
「さぁ、暁斗ちゃん…。私の愛を…」
「お断りだってーのッ!!」
 大きく吠えると、暁斗は桟に脚をかけ、外へと身を踊らせた。たまたま居合わせた二年生が、悲鳴をあげる。だが、暁斗は冷静に隠し持っていたワイヤーを取り出し、上に投げ三階の窓のサッシに引っ掛けると、ぶら下がり一階の開いていた窓へ滑り込む。たまたま居合わせた人物は、突如表れた彼に加えていたアロマプロップを落としかける。暁斗の方は嬉しそうににんまりと笑った。
「みーなかみッ」
 暁斗は皆守に抱きつくようにして着地した。皆守は一瞬たたらを踏んだが、懸命にバランスを取って持ちこたえる。
「あ、暁斗ッ!? どっから出てきたんだよ、お前」
「窓から」
 躊躇いもなく上を指差す暁斗に、皆守は考え込んで、
「………ああ、そういう奴だったな、お前は」
「なんか嫌だな、そういう理解のされ方は、まぁ良いけど。行くぞ」
 暁斗は皆守の手を引いた。
「あ?」
「朱堂に追い掛けられてんだよ。誰が、ダーリンだってえの」
「好かれてるからだろ。俺は関係ないからな、お前ひとりでやってくれ」
「やだやだやだ。逃げるなら皆守とが良い。一緒に愛の逃避行しようよ」
「………」
 駄々をこねる暁斗を、皆守はジト目で見つめる。何となく、暁斗も朱堂も同類の様に思えた。暁斗は全身全霊で認めたくないらしいが。
「暁斗ちゃ〜ん」
 朱堂の巨頭が角から見えた。敏感に反応して、掴んでいた手をさらに引く。
「ほらッ、行くぞッ! お前だって、犠牲になりたくないだろ」
「…分かったよ」
 仕方無しに言うと、あからさまに暁斗はほっとする。
「ようし、行こう! 二人愛の逃避行!!」
「カレー、奢りな」
「…皆守のイケズ…」
 水を差す皆守の台詞に、暁斗は膨れつつも走り始めた。


04/10/12

 

 

かわいいひと 夷澤+響

 この人を、初めてかわいいと、思ってしまった。

 五時間目の体育。響は、掌を隠した長袖ジャージの先を口に持ってきて、息を吐きかけた。こもった暖かさが、ほんのりと冷えた指先を暖める。もう季節は冬と呼ぶに相応しいから、外での体育はあまり嬉しくない。
 男子は陸上の100メートル走で、皆トラックの内側で自分の出番が来るのを待っている。他愛無いお喋りをしていたり、戯れあっていたり。響はそうする事の出来る友達はいないので、居心地の悪さの中で視線を彷徨わせる。
「…あれ?」
 一人、級友の中からはぐれたように夷澤が立っていた。脚を屈伸させて、ウォーミングアップをしている。何度か同じ動作をすると、今度は腕を回しはじめた。一連の行動を見て、響はある事に気付く。
 どこを見ているんだろう。
 夷澤はずっと上を向きながら、動いている。何か大切なものを探しているように、きょろきょろと。
 気になって、視線を追い掛けるとその先には教室の窓があった。ぴたりと閉められていて、中は見えない。
「あ」
 夷澤が見ている教室は何か。響はすぐに思い至った。そこには響の尊敬する先輩がいる場所だ。蛍光灯の明りはついているから、授業はしているだろう。そして、今日の昼休み、その教室で席替えがあって窓側になれたんだ。と嬉しそうに話してくれた先輩を思い出す。
 それらを合わせて考えてみると。
 なんだか、夷澤がとてもかわいいと思えた。
 いつも先輩の隣には決まった人がいて、話す度に苛つく夷澤の姿を響は見た事がある。ラベンダーの香りがするその人は、さりげに邪魔をして彼と先輩が話すのを遮るんだそうだ。
 きっと少しでも、見ていたいんだろうなぁ。
 後ろからそわそわ動く背中を見て、響は微笑ましく口元を緩めた。


04/10/13

 

 

オムレツ 取手+暁斗

 明日の昼飯、取手の好きなもの作ってくるよ。何が好き?
 そう暁斗に問われ、取手は戸惑いがちにオムレツでもいいかな、と答える。背は取手の方が高いのだが、どうしても屈みがちになる為、同じ視線の高さで見える暁斗の顔が自信満々に輝く。まかせておけと胸をはって豪語した。
「…知らないからな」
 後ろでは皆守が呆れている。取手は知らず、楽しみにしてるねと嬉しそうに頷いていた。
 それが、昨日。
 そして、今日。約束の場所に指定された保健室に向かう取手が見たものは、見るも無惨な、
「…スクランブルエッグだな」
 それ見た事か。生活が、国語に続いて悪いくせに。
 テーブルの上に乗っかった皿を見て一言、暁斗の傷をえぐる言葉が飛ぶ。四時間目を保健室のベットで過ごしていた皆守は、起きしなにアロマに火を付けて、ラベンダーの香りを吸った。暁斗は揶揄するように笑う皆守を睨み付け、そして取手に深々と頭を下げる。
「ごめんなさい」
「え…、そんな、謝らないでよ暁斗君」
 取手は慌てて暁斗を止める。
「僕はスクランブルエッグも好きだよ。…これ、食べてもいい?」
「そりゃもちろんいいけどさ。出来る事なら…オムレツ食べさせてやりたかったよ…」
 うなだれる暁斗に、取手は笑いかける。一緒に食べようと手を振って誘った。お礼にやきそばパンを買ったから。カレーパンもあるし。
 差し出したパンに暁斗は尻尾を振る子犬のように顔を輝かせる。取手の隣に座ると、さっそくやきそばパンの包装に手をつけた。
 カレーと聞いて、うつらとベットの中に留まっていた皆守が、上履きをつっかけだるそうに手を伸ばす。暁斗の頭を超え、目的の物を目指すが、それよりも早く暁斗がカレーパンの封を開け、一口で食べてしまう方が先だった。
 怒る皆守にそ知らぬ顔で暁斗が焼そばパンを頬張る。やり取りがなんだかおかしくて、取手は頬を緩ませていた。
 フォークを手に、手作りのスクランブルエッグを口に運ぶ。
 ほんのり甘く、取手の好きな味だった。


取手は葉佩が作ったものを喜んで食べそう。

 

 

こんな事はあまり好きじゃないけれど 暁斗+白岐

 美術室がある校舎と、自分達が勉強に励む教室がある校舎の間に、挟まれるようにあるのは一本の大きな樹。三階よりもさらに高く空に突き出しているそれは、太陽の光を、葉っぱの形にちぎって、床に落としていく。ぱらぱらと光点が降り注ぐ様は、何だか光の雨のようだ。
 白岐はそっと手をそこに差し入れた。暖かい。柔らかく優しい秋の色だ。
 窓を開けると風が入る。少し冷たい、でも気持ちいい感触。こういう時は外で絵を描くのもいいかもしれないと思う。例えば温室とか。緩やかな陽の中で咲く花を思い浮かべると笑みが溢れた。
「なんだ、そんな顔もできるんじゃないか」
 窓の外から呑気な声がした。
「いやぁ、いいものを見たなぁ」
「………葉佩さん」
 しまらない顔の笑みの暁斗に、白岐は呆然とする。彼は外の樹に掴まっていた。足は裸足で、指を上手に使い、微妙な加減のバランスを取っている。枝は細くてしなりやすく、力を込めれば直ぐに折れてしまうのに、暁斗は恐がりもせず、白岐がいる美術室へと身を乗り出す。
「白岐さんは絵を描いている途中?」
「………いいえ、どこで描こうか迷っているところよ。そう言うあなたはどうしてそんな所にいるの?」
「………」
 暁斗の顔が青ざめた。
「………朱堂に追われているんだ」
「御愁傷様ね」
 白岐は気休めにもならない慰めをかける。
 皆守のやつどっか行っちまって、助けてくれないからさ。小さくぼやきながら、どう逃げるべきか迷っている暁斗は、何だか不憫にも見えた。
 どうにも厄介な相手に惚れられた暁斗は、たまにこうして追い掛けられている場面を、白岐は何度も目撃している。きっぱりと断れば解決するかも知れないのに。でも暁斗がそうしないのは、彼なりの優しさがあるからなのだろう。
 しょぼんと俯く暁斗を、白岐は呼ぶ。
「−葉佩さん。ここまで来れる?」
「…白岐?」
「そこは色々と危ないから。あなたのお友達が来るまで匿ってあげるから、こっちに」
 暁斗は目を丸くした。
「−いいの?」
「…あなたが落ちて怪我をするよりは、余程いいわ」
 それにそうなったら、八千穂さんも哀しむもの。
 窓から離れ、白岐は道を作る。暁斗はにっこり笑うと、美術室へ飛び込んだ。
 光の雨が揺れる。暁斗からは暖かい秋の匂いがした。


白岐さんは可愛いデス。

 

 

 

カレー大魔王と《宝探し屋》 皆守×暁斗

「…まただ」
 あの野郎、こりもせずに。
 皆守は舌打ちをして、立ち上がった。目の前にあるレトルトカレー専用棚には、残り少ないレトルトカレー。先日補充したばかりだから、少ないなんて、そんな事はあり得ない。
 犯人は知ってる。分かりきっている。学校の備品を盗み続け、あまつさえ、誰もが恐れる生徒会長の屋敷から、日本刀さえ盗む神経の図太いアイツだ。
 皆守は無言で部屋を出る。廊下を歩いてある部屋の前で立ち止まると扉を二回ノックした。
「どぞー」
 間抜けな返事を返されて、皆守は鍵もかかっていない部屋に入り込む。カレーの匂いにいよいよ確信を深め、後ろ手に鍵を閉めるとベットに寝転がりHANTを開く暁斗の後ろに忍び寄る。
 暁斗は皆守を振り向かずにキーボードを叩く。
「どうした?」
「………カレーはうまかったか?」
 低い声。だが、暁斗は気付かない。
「ああ、うまかった。やっぱ皆守の選んだヤツはどれも、うま………。はッ」
 肩を跳ねらせ、暁斗は後ろを振り返った。口元には拭い損ねた、カレーが。
「やっぱり、お前かッ!」
「ししし、しまった! 何故バレたんだ!?」
「バレバレだろうがッ!! 暁斗、お前も懲りないヤツだなッ」
「だって、調合するにも必要だし、カツカレー。それにカレー爆弾作りたいのにカレーがないと、」
 失言に気がついて、暁斗は口を押さえる。が、その言葉はしっかり皆守に届き、彼の表情も一気に凄みを増した。
「ほお、お前はそんな風にカレーを粗末に扱っていたのか…」
「いや、ジョークですよ。トテモ、軽イ、ジョークデス」
「都合が悪くなると片言になるよな、お前は。…まぁいい」
 カレーを盗んだお返しと言わんばかりに、皆守は暁斗の上にのしかかり、マウントポジションを手に入れる。しっかりとした意図を持って、その服に手をかけた。
「さぁて、覚悟はいいか?」
「ナ、ナンノ覚悟デスカー?」
「決まってるだろ」
 皆守は勝ち誇った笑みを浮かべる。

「寝かさないからな、今日は」 

 本気の目に、暁斗はなす術もなく、乾いた笑みを浮かべるしかなかった。


カレー大魔人最強。

 

 

 

いつもの事 皆守×暁斗+取手 

暁斗「皆守」
皆守「………」
暁斗「皆守−」
皆守「………」
暁斗「みーなかみっ」
皆守「………」
取手「呼んでるよ、皆守君」
皆守「あ?」
取手「だから、あっちゃんがッ、って」
暁斗「ばぁ!! …うぎゃ」
皆守「おーおー、見事なスライディングだな」
取手「大丈夫ッ!? あっちゃん!」
暁斗「ううう、大丈夫だよ鎌治。ありがとうお前は優しいよ。どっかのおばかさんとは大違いだなぁ!!」
皆守「念を込めて睨んでくるな」
暁斗「だいだいなぁ、何で呼んだのに答えないんだよ」
皆守「さぁ、聞こえなかったからな」
取手「そうなの?」
皆守「………」
暁斗「そうか、そうだったんだな。悪かったよ、皆守」
皆守「………?」
暁斗「もう、年だもんな。腰は大丈夫か? 冷やしたら駄目だぞ!!」
皆守「………」
暁斗「あいだだだだだだだ。ほぉおひっふぁるな(訳・頬を引っ張るな)!!」
皆守「おーおー、お前の頬は何時もながら良く伸びるな」
暁斗「ふぁかやろぉー(訳・バカヤロ−)!」
取手「………素直じゃないんだから」
皆守「ん、何か言ったか」
取手「ううん、なにも」
暁斗「あいだだだだだだだ」

 


ただ単に、声が聞きたかっただけ。