下校の10題
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(なのですが、今はページがないようです……)

1 帰ろう! 皆守+暁斗
2 雑音の中、君を呼ぶ 皆守+ひどり
3 2人並ぶ帰り道  皆守×暁斗
4 つられて笑顔 取手+暁斗
5 ウワサ話 皆守+暁斗
6 恋愛談義 皆守→暁斗?
7 時間切れ 皆守×暁斗
8 寂しくないサヨナラ 暁斗+八千穂
9 振り返ったら、君も見てた 皆守+暁斗
10 帰りを待つ人 皆守+暁斗
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1.帰ろう! 皆守+暁斗


「こーたろー」
 眠気でダルく感じる意識の中、遠くから誰かが自分の名前を読んでいる。ああ五月蝿い。まだ眠ったばかりなんだから、もう少しこのままで居させてくれ。皆守は機嫌悪く眉間に皺を寄せ、声が聞こえてくる方向の反対を向いた。
「こーたろー」
 声はしつこく聞こえ、腕を軽く掴まれると遠慮の欠片もなく揺さぶられる。頭も揺れて三半規管が乱れてくる。そうすればたとえ目が瞑っていても気持ち悪くなる。いい加減にしろ。拒絶の意味も込め、揺さぶってくる手を邪険に振り払った。ばしばしんと手ごたえ二つ。ようやく揺れは止まり、息をついて安心すると、背を丸めいよいよ寝る準備に入る。
「………こーたろう?」
 おずおずと尋ねてくる声。ほんの少しかわいそうに聞こえる。
 ……やりすぎたか? 哀れに思えて皆守は眠気に閉じかけていた瞼をむりやり抉じ開けて薄く開く。
 次の瞬間、皆守はそう思った自分が馬鹿らしく感じた。
「------うりゃあっ!」
 視界が陰る。何事かと見上げてみれば、そこには自分に覆いかぶさる人の影。
「なっ!」
「おっきろー!」
 声の主----暁斗が皆守を押しつぶすように覆いかぶさり、ぎゅうと抱き締めると力を込める。大方、呼吸を遮り無理矢理起こそうと言う魂胆なのだろう。
 だが既に起きていた皆守にとっては暁斗の取った行動は毒だった。移ったラヴェンダーの香りもそうだが、硝煙と土の香りもしてきて、慌てる。人にとっては物騒極まりない暁斗の香りは、皆守にとっては欲情をかき乱してしまうから。
「---馬鹿、やめろって」
 暁斗の腕を掴み、自分の口を解放させると開口一番暁斗を止める。
「ようやく起きたな!」
 一方の暁斗は作戦が上手く言って御満悦だ。嬉しそうに笑って、皆守から離れた。
「これで起きない方がどうかしてるだろ。人を殺す気か」
「へっへー、ごめんごめん。でもそうしないとお前いつまでも寝てそうだったから。もうすぐ下校の時間だし。サボってるのに、迎えに来てやったんだから感謝しろよ」
 そう言って教室に置きっぱなしだった鞄を、暁斗は渡す。暁斗もまた、自分のデイバックを肩に掛け、帰る準備が万端だ。
「帰ろう! マミーズでカレー食べに行こうぜ!」
 立ち上がり、陽気に笑って皆守に手を伸ばす暁斗の笑顔は、眩しい。目を細めて皆守は「仕方ないな」と掴む。自分よりも少し小さい手はとても暖かい。この手で誰かを救って来たのだと思うと、何となく胸がすうすうした。
 いつか自分の番が来た時、俺は素直にその手を取れるのだろうか。
「今日はなにカレーにしようかな? 皆守は何にする?」
「そうだな……」
 考えるふりをして、そっと手を離す。今の自分にはまだもったいないような気がして。
「とりあえず、帰りながら考えようぜ」
 皆守の提案に、「そうだな!」と暁斗は笑って校舎に続く鉄扉を開けた。

少し切ない感じで。


2.雑音の中、君を呼ぶ 皆守+ひどり


 今日は午前中授業に出ていたものの、午後はどうにも眠気と面倒くささがつきまとい、皆守は葉佩と八千穂の目を盗んで保健室のベットで惰眠を貪っていた。屋上で昼寝をする方が多いが、さすがに冬が深まってくると、冷たいコンクリートで風に吹かれるよりも柔らかいベットで暖かく眠りたくなる。幸いにも保健室の主、瑞麗は居なかったお陰で皆守は十分に睡眠を取れた。
 目が覚めれば白い天井が仄かに橙色の夕陽色に染められている。肘をつき上体を軽く上げると、皆守は髪を掻きながら枕元に置いた腕時計を手に取って見る。時間はまだまだ早かったが、短い陽の長さのせいか、空はもう夕方と呼ぶに相応しかった。
 欠伸を一つ大きくかいて、ベットから降りる。おざなりに上履きを履いて、保健室を出た。
 そのまま帰ろうとすぐ近くにある昇降口に向かいかけ、すぐに止まる。鞄が教室に置きっぱなしだった。鞄が置きっぱなしだと見回りの際、《生徒会》に見咎められるかも知れない。
「………」
 どうしようか、と皆守はたっぷり迷ってから仕方なく階段を上がる。早い所ではもう終礼が終わってしまったようだった。教室から鞄を手に生徒たちが出てくる。部活や寮に向かう彼らを尻目に、皆守は階段を昇り続ける。
 ようやく教室に着いた時、三年C組も終礼が終わっていたようだった。教室の中は騒がしい。
 出てくるクラスメートたち。彼らはみんな、皆守を見て『またサボってたんだな』と言いたげな苦笑を漏らすとさっさと中に入るように促す。「早く行ってやれ」そう急かす奴もいた。
 何の事が分からずに、皆守は教室に入る。一日の授業が終わった開放感からか、クラスメートの話声や笑い声に賑わっていた中で、皆守は自分の席に立っている葉佩の姿を見つける。彼は自分の鞄と皆守の鞄を机の上に置いて、誰かを待っているようだった。
 相手は、聞くまでもないだろう。葉佩は他の誰でもない、皆守を待っている。その事実が、皆守に心地よい疼きを齎した。
 ああ、ここまで来て良かった。と皆守は思う。たまには、こっちから呼んでやるのもいいだろう。知らず、葉佩にだけ見せる優しい笑みを零して皆守は口を開く。
「----------葉佩。帰るぞ」
 雑音の中、彼を呼ぶ声は確かに伝わり、葉佩は皆守を見て満面の笑みを浮かべた。


ひどりはオフライン主人公のせいか、そっちの方が動かしやすい気がします。


3.2人並ぶ帰り道  皆守×暁斗



 気が付けば、一人だった帰り道。
 何時の間にか、横に一人増えている。
「なぁなぁ、今日もかえってすぐ寝るつもりかよ?」
 皆守の横を、暁斗が歩く。二人は並んでいるが、暁斗の方が歩調は遅く、少し駆け足気味になっている。肩に掛けられたデイバッグや学ランのポケットは、はち切れんばかりに膨れている。暁斗の言う、『資材調達』の名の元に盗まれた学校の備品たちだ。これだけでも大量なのに、夜になればまた盗みに校舎へと忍び込む。
 処罰を恐れない大胆さに、拍手を送りたくなる。だが、そこまでするほど皆守もお人好しではない。
「もちろんだ。昨日も一昨日も、お前の夜遊びに付き合わされたんだ。寝れる時に寝ておかないと、倒れてしまいそうだからな」
「倒れるって……。眠気で?」
「当たり前だ」
 欠伸をかみ殺し、アロマパイプを銜える。火をつけてしまうとラヴェンダーの香りで眠気は倍増するので、所在なげに差し込んだスティックを揺らす。
「ったく……。お前が来てから、俺の睡眠時間は減る一向だ。この責任はどうとってくれる?」
「んん……。そうだなぁ……」
 暁斗は歩きながら考え、そして徐ににっこり笑うと皆守に抱き着く。
「ではオレが責任をとって皆守の抱きつき枕になってあげよう。オレ結構体温高いから、冬場には暖かくて重宝するよ」
「抱きつきって……。お前が抱きついて来てどうするんだよ」
 横から抱きつかれ、皆守は足を止め、地面に倒れないよう踏ん張る。
 へへへと暁斗が笑った。
「だって皆守も結構抱き心地がいいんだもん。体温ひっくいから、人間カイロにはなりにくいけど」
「言ってろ」
 皆守は優しく笑い、暁斗の頭をくしゃりと撫でた。太陽の匂いがする髪の毛が、指の間をくすぐって通り過ぎる。うっとりと気持ち良さそうに目を細める暁斗に、今度は意地悪く笑みを零した。
「なら、お互い暖めあうのはどうだ? そうすれば、お前も寒くはならないだろう」
「それはまた……。大胆だね。こんな外で誘うなんて」
「いきなり抱きつくお前が悪いんだ。……それで? やるのかよ。やらないのかよ」
「やる」
 即答する暁斗に、一瞬虚を突かれながらも、皆守は忽ち笑顔になった。
「そうか、じゃあ覚悟しておけよ」
「望む所だ」
 二人並んで帰れば、世界は忽ち甘くなる。


この後は、裏まっしぐらな展開で。


4.つられて笑顔 取手+暁斗

 気が付けば、空は夕暮れどころではなく、闇色に近い。ピアノに引く事に集中していた取手は、慌てて帰る準備と音楽室の戸締まりをして校舎を出た。下校時間はとうに過ぎている。早く帰らないと《生徒会》に目をつけられてしまう。
 もう季節は冬。陽が落ちるのも早くて、息を吐けば白い靄が出て来てすぐに消える。移動は殆ど校舎と寮の行き来だけで、たかを括っていたが、いい加減に防寒着を用意すべきだろう。
 風邪を引いたら、《遺跡》の探索に誘われても行けなくなる。それだけはどうしてもしたくなかった。きっと優しい友達は僕の心配をして、《遺跡》に行く事を止めるかも知れない。その人の行く道を、邪魔したくはなかった。
「とっりでー!」
 いきなり抱きつかれた。否、突進された。後ろに気を止めていなかった取手は、のしかかる衝撃に前に仰け反る。持ち前の長い腕を使えば、何処かにしがみつく事は出来ただろうが、それも躊躇われる。下手に打ってピアノが弾けなくなるのはごめんだ。
「うおっとととと」
 ぐんっ、と今度は後ろに引かれる。俯いていた視界から、胴体に回る腕が見え、それから引かれた反動で持ち上がった頭は、目に薄い赤から紫、そして昏い青色へとグラデーションする空を映した。雲がない。
 取手は背筋を真直ぐ伸ばして立つ。常に猫背気味の身体が伸びると、何だか世界が新鮮に見えた。
「っはー。ごめん取手。驚いただろう?」
「はっちゃん」
 ひょっこり暁斗が取手の後ろから悪戯な笑みを覗かせた。ほだされて、取手はまたいつもの猫背に元通り。
 視線が絡まる。
 取手の頬が赤くなる。
「どうしたんだい? 下校の時間はとっくに過ぎているみたいだけど?」
「ふふふー」
 自慢げに笑い、暁斗は何処からか硝子の瓶を取り出した。それは古びた紙のラベルが貼られ、透明な液がたぷんと揺れる。香りには疎い取手にも分かる匂いがする。
 ----理科室の匂いだ。
 取手の脳裏に、同級生の小さな女の子が怒っている姿が目に浮かぶ。
「ええと、それ、もしかして?」
「そう、ナトリウム」
 事も無げに言って、暁斗は愛おしそうに瓶に頬を刷り寄せた。恍惚とした表情は、黒塚君のようだ、と取手は思う。
「今まで、見付からなかったんだけど。今日、ようやく発見したんだ。Get Treasure! これで、爆弾作りもさらに効率がよくなるから、作業もはかどる!」
「そうなんだ」
「うん、そう!」
「良かったね」
「良かった!」
 夕暮れなのに。暁斗の笑顔は太陽みたいだ。そこだけ明るくてまるで昼のよう。どんな闇もこのひかりの前には適わない。
 もちろん、僕だって。
 取手はつられて笑う。
「はっちゃん」
「ん、何?」
「それで手に入れたそれを使って、爆弾とか……作ったら、《遺跡》に行くの?」
「うん、行くよ。効果の程を見てみたいからね」
「もし良かったら、僕も連れていってくれないかい?」
「ん、良いよ!」
 すぐに了承されて、取手は嬉しそうに笑みを深めた。
「じゃあ、帰ろう。早く君と一緒に行きたいから」
「そうだな」
「でも、皆守君は呼ばないでね」
「……? うん」


こっそり取手vs皆守風味
実はトトvs皆守もいいなと思ってる。


5.ウワサ話 皆守+暁斗


「甲ー。帰ろうぜ」
「あー、そうだな。……だるい。今日は午後の授業を全部受ける偉業を成し遂げたんだ。俺は今日、寮で寝るぞ」
「それ困るよ。だって今日付き合ってくれるって言ったじゃないか」
「……そんなこと、言ったか?」
「言った言った! 夜更けてもずっと一緒。朝まで頑張ってくれるって」
「あのな……。俺はそこまで言ってないぞ。第一朝まで起きていたら、俺は眠くて死にそうだ」
「大丈夫だって! 今までだって頑張って来れたんだからさ。今日も……頑張ってくれよ。お前じゃないとオレ満足出来ないんだよ」
「………」
「………な? いいだろ? お願い。オレの為に頑張って」
「……ったく、仕方ない奴だなお前は」
「じゃあ」
「朝までは無理だが、まぁ少しぐらいだったら付き合ってやるよ。その代わり下手な事をしたら承知しないからな」
「うんうん! オレ頑張る。やったぁ、今日も甲と一緒だー」
「馬鹿、そんな大声で言うな。マミーズに行くぞ。慣れない運動の前に、まずは腹ごしらえしないとな。奢れよ」
「はーい。じゃ、行こうぜ」  暁斗に背中を押され教室を出ていく皆守を、たまたま近くで聞いていたクラスメートの一人が凍り付いた表情で見送った。振り向いた首の動きもぎこちなく、友人が近づいてきても気付かない。
「どうしたんだよ。そんな変な顔をして」
「………」
「おい?」
「アイツらが出来てるってウワサ、本当だったんだな」
「ええっ、どう言う事だよ、それ!」
 興味津々で話に乗ってきた友人に、クラスメートは重い口を開いた。
「今巷でウワサになってんだよ。葉佩と皆守が付き合ってるって言うの。それでなくてもアイツらずっと一緒にいて、一人の所を見た事ないし。夜は夜で一緒に外に出て、何処かに行ってしまうからって」
「夜……? マミーズじゃなくて?」
「いやー俺もそう思ってたけど! アイツらの話を聞いて違うと思ったね。断言する。アイツらは出来てる」
 盗み聞きしたのは悪かったが、なにぶん話の内容が過激だった。付き合うとか、朝までとか、頑張ってくれとか、お前じゃないと満足出来ないとか。これはまるで、葉佩が皆守を誘っているようにいかがわしく聞こえる。ほんのりと暁斗の頬が赤くなったり、皆守も満更じゃないように見えて、なお始末に困る。
「……まぁ、悪い奴等じゃないからな……。俺たちは変わらず友達でいようぜ……」
「……おう?」
 しみじみと頷くクラスメートに、友人は今いち理解出来ずに首を捻りながらも曖昧に返した。 「へっきし」
「親父くせーなそのくしゃみ」
「誰か噂してんのかな?」
「風邪ひいてんだろ。顔赤くなってるぞ」
「えー」
「帰ったら熱計って、少しでもあったら中止だからな、夜遊び」
「ええー。だから笑ってたのかよ! 探索がなくなるかも知れないからって!」
「さぁ、どうだかな」


知らぬが仏。


6.恋愛談義 皆守→暁斗?



 帰りかけると、暁斗はクラスメートに呼ばれた。手招きするクラスメートの後ろには、恥ずかしそうに俯く女子生徒が戸口に隠れて立っている。見かけた事のない顔だ。ちらりと見える上履きに走る青い線から二年生だと分かる。
 どうして見も知らぬ人に呼ばれるのか。暁斗は首を捻りながら、女生徒に「何?」と尋ねる。
「あの……。ちょっと……屋上まで来てもらえませんか?」
 消え入りそうな声に、暁斗はますます疑問を深めながらも、素直についていった。 「………ん?」
 屋上で一眠りしていた皆守は、ふと聞き慣れた声に目を覚ました。腕時計を見れば終礼が終わったところか。大きく伸びをして辺りを見回す。
 端につけられた柵の辺りに人が二人いた。一人は暁斗だったが、もう片方は知らない女生徒だ。長い髪を風に晒して暁斗を見上げている。
 無駄に良い視力のせいで、皆守は女生徒の方が赤く染まっているのを見つけた。暁斗を見つめる視線も熱っぽく、それだけでこれから何が起こるか理解出来る。恐らく女生徒は暁斗のことが好きで、屋上で告白に踏み切ったのだろう。ここだったら時間帯、終礼が終わる頃は人は殆ど来ず、格好の告白場になるだろう。
 だがそれは皆守にとって迷惑な話だ。寝ている途中に、傍で告白の様子を聞かされると余所でやってくれと常々思う。今だってそうだ。何が悲しくて友人への愛の告白を聞かなくてはならない。 「それで、話って、何?」
 告白されるとは露とも思っていない暁斗はいつもと変わらない。対して女子生徒の方は、見るからに言葉に詰まって肝心な言葉を出せずにいる。
「あの……、そのっ」
「…………?」
「あの、わたしっ」
「うん」
「貴方のことが……好きだったんですっ」
「えっ」
 ようやく状況を把握した暁斗は、あからさまに驚いた。
「ずっと前から良いなって思ってて……。つ、付き合って、ほしいんですけどっ!」
 女子生徒に押されるように、暁斗は後ずさる。目は泳いで、返答に困っていた。告白される経験が少ないお陰で、恋愛に関する知識は他の高校生より浅い。
 《宝探し屋》としての経験も、恋愛には余程使えなくて、直ぐさま返事を迫ってくる女子生徒の気迫に飲まれてしまう。
「悪い、オレ、付き合うとかまだそういう気にはなれなくて」
「じゃあ友達からでもいいです。だから付き合ってください」
「友達って………」
「友達から恋人にって、あるじゃないですか。もしかしたら、接していくうちにあたしのこと、好きになってくれると思いますし」
「………」
 いきなり知らない人間にそう言われても、それもまた返答に困る。少なくとも今までの友達は交流を持って(《遺跡》でのことも含めて)親好を深め、そうなった経緯が多いから、目の前の彼女のように迫られるのは好きじゃない。
 強引な彼女の言い方に、暁斗の表情が曇る。

 困ってるようだな。遠目の見学を決め込み、皆守は横目で様子を窺う。
 言い寄るように女生徒は暁斗ににじり寄り、その分暁斗は後ろに下がる。女生徒は何かを言っているようだった。あいにくここまでは聞こえないが、暁斗の表情が曇っていくところを見ると、あまり暁斗にとっては面白くない事を言われたようだった。
 もうそろそろか。皆守は立ち上がる。 「……悪いけど、君とは付き合えないよ」
「どうしてですか!?」
「オレにはやる事がある。君に構っている暇はない」
 きっぱりと言われ、女生徒は悲痛な面持ちになる。断れると思っていなかったようだった。
「オレなんかより、もっと良い奴がいるだろうから、そいつを見つけなよ」
「………」
 俯く女生徒の目に涙が浮かぶ。鼻を啜っていたが、暁斗はそれを聞こえない振りをした。ここで優しくしてやったら、また女生徒はいらない期待を抱くだろう。
「じゃ、寒いから早く帰った方がいい」
 それだけ言って、暁斗は屋上を後にする。

「よう」
「………甲」
 浮かない顔で教室に入る暁斗は、自席に座る皆守に足を止める。皆守は立ち、暁斗の鞄を放る。
「ほらよ」
「……ありがとう」
 受け取った鞄を背負い、暁斗は皆守と一緒に下校した。
 暁斗はずっと浮かない顔をしている。告白の様子をあらかた見ていた皆守は知っていたから、何も聞かない。恋愛の相談を受ける程、器用な訳でもないし、聞いたって答えられない。
「……なぁ」
 唐突に暁斗が呟く。
「恋愛って、難しいよなぁ。オレ、しばらくああいうのはごめんだな」
「………そうか」
 皆守は複雑な顔をして答える。これは、手強い相手だ。あの女生徒のようにならないように、もう少し慎重にやるかと、密かに決める。
 そして恋愛に慣れない二人は、そろって相手に聞こえないように溜め息を吐いた。




7.時間切れ 皆守×暁斗

 保健室のベットはとても暖かい。それは長い間毛布に包まっていたお陰か。それとも、すぐ隣で寝ている人間のお陰か。
 たぶん両方。暁斗はラベンダーの香りに眠気を増長しながら、背中を向けて寝むっている皆守に擦りよった。ぐりぐりと額を押し当ててやれば、それは身じろぎこちらに寝返りをうつ。
 暁斗の行動を、腕の中に身体を閉じ込める事で戒めた。引き寄せられ、Tシャツにあしらわれた炎のマークが、目の前一杯に埋まる。
「……すこし、おとなしくしとけ」
 気怠るそうに見えて、実ははっきり発音する声が眠気に微睡んで舌足らずになる。
「おれはまだ、ねむいんだ……」
 そう言って、暁斗を引き寄せると皆守は抱き枕よろしく首筋に顔を埋め、寝息を立てた。耳元で聞こえる規則正しい呼吸に、暁斗の心拍は一気に高鳴って眠気が覚めてしまう。
 けれども、甘えてくる仕草が嬉しくて、そのままなすがままにしていた。何しろこの男は、意識がはっきりしていると、甘えるという行動は取ってくれない。
 無意識の行動とでも言うのか。たとえ寝ぼけ眼でも、起きた後に覚えてくれなくても、そうしてくれる事が嬉しかった。
 眠るのがもったいなくて、暁斗も皆守の体温や髪、服越しの身体の感触を堪能していたが、ふとシャツの中に忍び寄る指に、背中を震わせる。
「……っ?」
 それは腰に這い、ざわざわと滑ってくる。慣れた様子で無い胸を潰している、ベストの内側に潜り込んだ。そのまま手はどんどん上がってくる。
「ちょっ、甲」
 身を捩り、暁斗が声を荒げる。
「何だよ」
 さっきよりも皆守の声ははっきりしている。
「お前……、起きてるだろっ!」
「暁斗が誘ってくるからだろ?」
「誘ってなんか、」
「無防備に擦りよってきやがって。それは俺にとって誘っている以外のなにものでも無い」
 私的な理屈をこねながら、皆守は楽しそうに行為を進めていく。背中の手はそのままに、もう片方は、抱きつきあうような形になっている身体の間に差し込んで、暁斗の学ランに触れ、器用にボタンを外していく。
 暁斗は嫌がり、皆守の胸を押して距離を取ろうと試みるが、背中に回した手が許してくれない。
 何時の間にか、暁斗は一人でベットに寝転がり、またがるように皆守が見下ろす。ご馳走を目の前にしたようなひかりを宿す目に、暁斗ははだけた前を腕で隠した。
「それがまた、そそるって言う事に気付かないのが、馬鹿だよな」
「馬鹿でいいもん」
「まぁ、どうあがいても、食べてやるけどな--------」
 皆守の唇が、暁斗の首元目掛けて降りていく。
「そこまでだ」  しゃっとベットを仕切っていたカーテンが開く。暁斗はあからさまにほっとして、皆守は露骨に嫌な顔をした。
 カーテンに手をかけ、保健室の主----瑞麗が生徒の睦言を前にしても動揺せず、ただ冷静に皆守を見据える。
「お楽しみの所悪いが、もうそろそろ下校の時間だ。保健室は閉めるからとっとと出ていけ」
「………全く、嫌なタイミングで帰ってくるもんだな。カウンセラー」
「こう見えて、聡いんでね。さぁ、いい加減暁斗を解放しろ。固まってるじゃないか」
「………」
「皆守」
「……ちっ」
 舌打ちをして、渋々皆守は暁斗の上から降り、上履きを履く。顔を赤らめながら暁斗は起き上がり、乱れた服を整えた。目は潤んで、首にはしっかりと皆守の痕がつけられている。それでも、襲っていた男を怖がらず、差し出した手に素直につかまって、ベットを降りたのは流石と言うべきか、鈍いと言うべきか。
「少しは場所を考えろ。他の生徒が来たらどうするつもりだったんだ」
 とりあえず、瑞麗は釘を刺してみるが、皆守にはあまり聞かない。
「睨んで追い返してやるさ。お楽しみの邪魔をするんだから当たり前だろう?」
 しれっと答え、「続きは寮に帰ってからな」と暁斗の耳元に囁くとそのままその手を引いて保健室を出ていった。
「………」
 さっきの比では比べ物にならない程赤くなった暁斗を見て、瑞麗は気の毒に思う。いつも気怠るいくせに、どうして暁斗が絡むとこう積極的になるのか。
「良い事なのか、悪い事なのか分からないな……」
 しばらく皆守は保健室立ち入り禁止だな。
 そう決めて、瑞麗は煙管に火をつけ、紫煙を吸い込んだ。


アグレッシブ皆守は瑞麗の頭痛の元です。


8.寂しくないサヨナラ 暁斗+八千穂

 いつもは皆守を伴って下校する暁斗が、終礼が終わってすぐ鞄を背負う。部活に向かう準備をしていた八千穂は、それを見て尋ねた。
「あれ、暁斗クン。今日は皆守クン待たずに帰っちゃうの?」
「うん、そうなんだ」
「へー、珍しいね」
 もう暁斗と皆守は一括りの存在で、クラスはもちろん、それは学園中の認識にまで及んできている。片方がいないと物足りないと言う人間まで出てしまう始末だ。もちろん、八千穂もその一人。
「てっきり、皆守クンと帰るかと思ってたのに。……もしかして、喧嘩中? 倦怠期とか?」
 声を潜めて言う八千穂に、暁斗はからからと笑い飛ばす。
「やだな、そんなんじゃないって。今日は資材調達の旅にでも出ようかなーって。大分少なくなってきたし」
 暁斗は、時折資材調達の名の泥棒を繰り返す。今は仲の良い元《執行委員》から譲り受けた鍵を使い、持てる限り何かを勝手に持っていっては、《遺跡》での探索に役立てる。黒板消しを大量に盗み、段ボール一杯になった時は、皆守に小一時間の説教を受けたりもしていたが、本人がそれを止める事はなかった。
 暁斗クンらしいけど。八千穂は思わず笑う。
「何で笑うんだよう」
「ゴメンゴメン、急に笑いが込み上げてきて。よくやるよねえ、暁斗クンも」
「そりゃ、オレは《宝探し屋》ですから。やれることはやっておかないとね」
「でも、程々にしておかなきゃ駄目だよ? 皆守クンの血管も心配だから」
 いつか切れそうな勢いで怒る皆守を思い浮かべ、暁斗は納得したように吹き出す。
「あーなるほど。今の八千穂の気持ちが分かったよ」
「でしょー」
 八千穂はテニス道具が入ったバッグを肩に担ぎ、机の横に掛けていた鞄を取る。
「それじゃあ、あたしは部活に行くけど……。今日も行くんだったら、誘ってね。待ってるから」
「うん。じゃあ、また後で連絡する」
 また、後で。その言葉は八千穂を嬉しくさせる。
 また後で会える。
 暁斗と一緒に居れる。
 たった一言で頑張れる。
「分かった! じゃあ、またね!」
「またな! 部活、頑張れよー!」
「うんっ!」
 全然寂しくない別れの挨拶をかわして、暁斗と八千穂は別れる。そして、夜になればまた心踊る冒険が待っているのだ。
「よーし、頑張ろーッ!」
 握りこぶしで奮起して、八千穂は階段を降りていった。


「よーっし、今日も元気にGet Treasure!」
「なにが、ゲットトレジャー、だよ」
「げっ、甲!」
「またお前は……。そんなしょうもないもの盗んできやがって!」
「盗んでないよ。資材調達なんだよ」
「同じ事だ。------返してこい」
「ええー」
「か・え・し・て・こ・い!」
「-----------はーい……」


おかん皆守


9.振り返ったら、君も見てた 皆守+暁斗


「あ」
 帰る途中、皆守の前を歩いていた暁斗は、眼前に見えた何かに、思わず走り出した。中庭の、植え込みの間からきらきら夕陽を反射して光っている。制服が汚れても構わず、葉を掻き分け、それに手を伸ばす。
 掴んで、目の前に持っていく。見る見るうちに、暁斗の顔はしょんぼりしぼれた。
「なんだ。ガラスの破片か……」
 恐らく元は瓶ジュースのだっただろう。何かの衝撃で割れて、そのままになっていたか。お金か、もしかしてお宝だったりして。淡い暁斗の期待は呆気無く消えた。
 溜め息をつきつつ、掌の破片を弄ぶ。鋭いエッジが食い込めば、皮膚は切れ、血が流れてしまうだろう。そのまま放っておくのは危ない。自分だったから良かったものの、他の人間だったら怪我に繋がっていた。
 脳裏に女子生徒ばっかりを追い掛けている助平な校務員を思い浮かべ、暁斗はガラスの破片を持ったまま植え込みから脱出した。これは捨てるべき場所まできちんと片付けよう。
「どうしたんだ。いきなり走ったりして。また、変なものでも見つけたか?」
「オレ的には宝だと思ったんだけど、これは甲が大正解。しょうもないもの見つけちゃったよ」
 ほらこれ。そう言って見せ掛け、暁斗は皆守を凝視してしまう。
 皆守が、あまりにも優しい顔で笑っていたからだ。まるで子供を見守る親のように。
 八千穂やクラスメートから、皆守は暁斗の保護者のように見える、とよく揶揄される。その度に否定してきたが、目の当たりにしてしまい、今更皆が正しいと思い知る。
「で、何だよ見つけたものって」
「……これですけれど」
 ガラスの破片を掌に乗せて皆守に見せてやる。
「危ないことしやがって。怪我でもしたらどうするんだ」
「……あの、皆守サン? オレ《宝探し屋》なんだけど」
 《遺跡》に潜り、化人と闘えば怪我なんていくらでもしてしまう。それこそ、命に関わるようなものも。ガラスの些細な切り傷など、暁斗にとっては大した事はない。
「これぐらい、全然平気だって」
「お前の平気以上に信じられないものはない」
 皆守は断言し、暁斗からガラスの破片を奪い取る。
「これは俺が捨てておく。お前に持たせたら、何かの拍子で握りしめそうだからな」
 そんな事はない。言い切れない自分がちょっと情けない。
 それでも子供扱いされたような気がして、口を尖らせた暁斗は俯く。
「帰るぞ」
 眼下に見えた皆守の足が向きを変えて、視界から消える。
「待ってよ」
 暁斗は追い掛ける。照れくさいが思いきって顔を上げ、皆守を見た。
 皆守も、暁斗を見ている。溶けるような甘い砂糖の笑みを浮かべて。喰らってしまった暁斗は顔を赤くしながら、皆守の隣に並んだ。胸がドキドキする。この分だと胸焼けだ。溜め息をつき、胸を撫で下ろして、思う。
 それでも、これは嫌じゃない、と。



10.帰りを待つ人 皆守+暁斗

 緑のひかりに溢れた魂の井戸で、暁斗は一人、自室に通じる不思議な力を持った水晶から手を抜いた。床に広げたシートに置いた宝の数々を手にとっては、同じ動作を繰り返す。手を水晶から抜く度に、持っていたものは消えていた。距離も構造も関係なく、それらは今自室の床に転がっているだろう。
「……今日のクエストはこれでお仕舞い」
 暗視ゴーグルを外し、一仕事を終えた安堵から息を吐く。今日も無事に生きて地上に生還出来そうだ。
 ここしばらくは資金稼ぎの為、ずっとクエストをこなしている。英語の成績が上がったせいか、JADEショップの品揃えも以前より格段に良くなり、《遺跡》の探索の効率を上げてくれる。だがそれは、十分な資金があれば、の話だが。
 銃を扱う暁斗には、銃弾が一番お金がかかった。加えて、救急キットや新しい銃が入れば、目移りもする。こうしてクエストをこなさなければ、あっという間に在庫は底をついてしまうだろう。
 クエストのみに集中し迅速に宝を送ってきたお陰で、依頼者の信用はうなぎ上り。報酬も右肩昇りだ。
「後もう少し頑張れば、MP5R.A.Sが手に入るんだ。頑張らないと」
 依頼者の信用がもっとも高まった時、《ロゼッタ協会》から進呈されるマシンガンに思いを馳せながら、暁斗は残ったシートを折り畳み、アサルトベストにしまう。
 魂の井戸では癒せなかった疲れが襲い、自然に溜め息を漏らしながら、凝り固まった肩を揉んだ。
「でも、今日はこれぐらいにしておかないとな。あんまり夢中になって、朝になってもいけないし」
 そうなれば、周りのバディが大袈裟に心配してしまいそうだ。
 暁斗は、忘れ物の有無を確認し、魂の井戸を後にする。

「………あれ?」
 夜間玄関から、足音を忍ばせて寮に戻った暁斗は、自動販売機の前に立っている皆守を見つけ、足を止めた。今は日付変更線を超えた深夜だ。とっくに皆守は寝ていると踏んでいたが、予想を裏切って彼は赤く光ったボタンを押している。
 がこん、と缶が落ちてくる。皆守は取り出したコーヒーを暁斗へ投げてやる。
 緩い弧を描いて飛んだ缶を受け止めると、暖かさが指先に伝わった。握りしめ、皆守に近寄る。
「もう、寝ているかと思った」
「たまたま、目が覚めたんだ」
 皆守にしては端切れ悪く言う。
「変な時間に目が覚めたもんだから、寝つけない。だから飲み物でも買おうと思ったんだ」
「へえ。何買ったの?」
「……今から買うんだよっ」
 皆守はポケットに手を突っ込んで、出した小銭を乱暴に自動販売機へと投入する。そして、飲みなれているメーカーのコーヒーを選んで、ボタンを押した。
 がこんと、再び缶が落ちる。取り出し口に手を伸ばし、皆守は腰を曲げる。
「………」
 暁斗は、掌のコーヒーを見た。自分自身の好きな、でも皆守とは違うメーカーのコーヒー。
 もしかしたら、皆守はここで自分の帰りを待っていてくれたんだろう。コーヒーを買うだけなら、まず自分の方から先に買うだろうし、こんなに彼が端切れ悪くものを言う訳がない。
 暖かいコーヒーの缶を握りしめる。胸に嬉しさが込み上げ、口元が弛んだ。
「甲」
「……何だよ」
「明日はオレがマミーズのカレーを奢ってやろう」
「……そりゃどうも」
「どういたしまして」
「じゃあ、上がるぞ。眠たくてしょうがない」
 さっきまで、目が覚めたと言っていた人間が、欠伸をかいて気怠るげに頭を掻いている。矛盾している言葉と行動に、暁斗は忍び笑いゆっくり歩き始めた皆守の後を追った。


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