――もう、あの場所にはかえれないんだよ。



Re:lacrima1 / End of happiness P82 オフ 600円
幻水5 カイル→←王子+シグレ
サイトで連載している長編の再録編
とは言え、結構書き直しているので、ウェブで読んだ方も楽しんでいただけるかと
表紙絵を篁めぐるさんに書いていただきました!


話の一部
書き下ろし部分から一部抜粋
「あーっ! 見ぃつけたぁ!」
 いきなり飛んできた声に、カイルは肩を竦ませた。
 廊下の角からひょっこり顔を覗かせたミアキスが、カイルを見つけるなり大きな瞳を猫のように細める。軽い足取りで近付き、カイルにまとわりついてきた。
「どこ行ってたんですかぁ? まだ公務が残ってたのにぃ!」
「いやそれは」
「ごまかそうたってそうはいきませんよぉ? 王子と街に出たところ、ちゃぁ〜んと見てるんですから、しらばくれないでくださいよぉ?」
「だから、」
「公務をサボる人が出て、わたしとても大変だったんですからぁ! やる事増えちゃったし〜、アレニアちゃんと一緒になってぐちぐち文句言われるしぃ」
 細められたミアキスの目に、冷たく怒りが差し込まれる。
「ねぇ――カイルちゃん?」
 普段はカイル殿と呼ぶミアキスの、常にない呼び方にカイルは寒気を感じて、無意識に一歩下がった。ミアキスが自分をそう呼ぶ時、彼女はとても怒っている証拠だと長い付き合いのあるカイルはよく知っている。
 口の端を引きつらせカイルは「ご、ごめんって」とにじり寄るミアキスを胸の高さまで上げた両手で抑える。だがミアキスは止まらない。
「姫様、すごく怒ってますよぉ〜。せぇっかく王子に会いに来てもいないし、リオンちゃんに聞いたらカイルちゃんと出かけたって言うしぃ? ぷんぷんになった姫様宥めるの大変だったんですから!」
 ミアキスに押される形で後ずさっていたカイルは壁に退路を遮られ、げっ、と内心舌打ちをする。方向転換する前に、ミアキスの指先が目の前に突き出された。笑っているのに怖く見え、カイルの背筋は震える。何とかその場を取り繕うと笑い返してみたが、失敗してしまった。
「――どうしましょうか?」
「どうしますって…どうするつもりなのかなー、ミアキス殿は」
「ええ〜っと、もう少し帰るのが遅かったら切り刻んでお魚の餌にしようかな、と」
 思ってたんですよぉ、と呑気な口調のミアキスから出てきた言葉に、カイルの顔が青ざめた。それを見て「冗談ですってばぁ」とミアキスは言うが、どう考えても本気の声音だとカイルは思う。彼女なら本気でしかねない。