「そんな可愛いコトしてくれて、我慢出来る訳がないでしょう?」
GOOD JOB! P60 110g 400円 カイルは大慌てで、医務室の扉を乱暴に開けた。ばん、と五月蝿く音が鳴り、直ぐさま白い仕切りの向こうから「静かにしろ」と厳しく叱責が飛ぶ。部屋に並ぶ寝台で患者を診ていたムラードも、その非常識な行動を睨み、カイルは「……す、すいません」と背を丸めて謝った。 同じ失敗をしないように、今度はノブを掴んでゆっくり扉を閉める。ムラードの視線から逃げ、カイルは診療スペースである仕切りの中に入ると、そこでようやく探していた人を見つけた。 「----ティー様!」 「静かにしろと言ってるだろう」 懲りずに大声を出したカイルを、ティーと向かい合って座っていた妙齢の女医が叱った。 「今治療中だ。大声を出されたら傷に障る」 「シルヴァさんの言う通りですよ、カイル様」 「リオンちゃん……」 ティーの傍らに立っていた護衛の少女----リオンがシルヴァの言葉に深く頷く。鋭い光を宿した眼でカイルを見据えた。 「少しは大人しくしてください」 「ご、ごめんってー……。でもオレ、すごく吃驚したんだから飛んできたんだよ? リオンちゃんだってそうするでしょ?」 「そうかもしれませんが……。でもやっぱり王子の傷に障る事はなさらないで下さい」 手厳しい言葉にカイルは肩を落とした。 リオンはティーの身を一番に考え、動いている。ファレナ女王国の王子----アル・ティエンを護衛する任を、誇りとしていて今日も立派に勤め上げていた。 そんな熱心な少女を止められるのは一人だけ。 座ってシルヴァの治療を受けていたティーが、リオンの方を向き「いいよリオン」と宥めた。 「王子」 「カイルは僕の事を心配してきてくれたみたいだから。それぐらいで大目に見てやってくれないかな」 「……は、はい……」 大河のごとき慈愛が滲み出た微笑みに、リオンが勝てる筈もなく、彼女は恐縮してこくこくと小さく頷いた。母親のアルシュタートから受け継いだ美貌も相まって、きっと他の女性が見たら瞬く間に心を射抜かれてしまうだろう。色恋に関して鈍い性質もあるので、尚恐ろしい。 カイルは苦笑しながらティーの後ろに立ち、肩ごしに治療風景を覗き込む。シルヴァの差し出されたティーの両手に白い包帯が巻かれていく。隙間から見えた痛ましい腫れに、顔を顰めた。見ているだけでも痛そうだ。 「一体どうしたんですかそれ」 怪訝に尋ねるカイルを肩ごしに見上げ、ティーは口を尖らせて質問の解答を拒否する。代わりに溜め息をついたシルヴァが、包帯を巻きながら答えた。 「----火傷だ」 「火傷?」 「王子は今日、紋章を用いての訓練をしていたんです」 リオンが控えめに進み出て、説明を始める。 「最近レヴィさんに学術を教わっていたので、今日はその成果を見ようと試してみたんです。……そうしたら」 ティーの左手に宿されていた烈火の紋章が、思いのほか強くなっていた魔力に反応して暴走したらしい。咄嗟に押さえ込み、周りに被害が及ばなかったが、当人の両手にはその魔力の残滓で酷い火傷を負ってしまった。 「もういいよ」とカイルはリオンを手で制して、そのまま腰に当てると深く息をついた。呆れたような溜め息に敏感な反応を示し、ティーの肩がびくりと揺れる。 「ティー様、頑張るのも程々にしてくださいよー。オレ、ティー様が怪我をしたって聞いて、どれだけ吃驚したが分かってます? 心臓が止まりそうだったんですから!」 「うっ、うるさいな。僕の勝手だろ」 こんな感じで進んでいきます……。総じて甘めなはず。
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