……僕、自惚れてる?




もう逃げちゃ駄目だからね


Dolce 幻水5 女子王子本 P36 300円 70g R-18

先天性で女の子の王子とどこかヘタレなカイルの話。
アルシュタート様が押せ押せです。王子も押せ押せです。
ゲストに篁めぐるさんをお呼びしています!
かわいい女子王子がいるよ!


話の一部


 その日の夜遅く、カイルは酒場を後にした。昼間の陰鬱な気持ちを、酒によって追い払おうとしたが、外で一人歩いている王子に、せっかくの酔いも覚めてしまう。加えて、護衛であるリオンの姿も見えず、カイルは冷や汗を掻く。
「――王子!」
 思わずカイルは駆け出し王子の元に向かった。夜にも関わらず、大声で王子を呼ぶと、王子は振り返る。そして走ってきたカイルに、ぱっと顔を明るくした。
「カイル」
 自分の元へ息を切らせて辿り着いたカイルを、王子はじっと見る。
「どうしたのそんなに慌てて」
「どうしたの、じゃありませんよ」
 酒のせいか、無頓着な王子のせいか。痛む頭にカイルは顳かみを押えた。
「夜一人で歩き回るのは危ないですから控えてください」
 いつゴドウィンが幽世の門の暗殺者を王子に仕向けるのか、分からないのだ。鍛練を積んでいても、向こうは戦闘のプロ。王子が殺されてしまう確率だって低くない。せめてリオンを護衛につけるべきだろう。カイルはそう説明するが、王子は「嫌だ」と頑に首を振る。
「リオンだって疲れているのに、僕の我が侭には付き合わせられないよ」
「でも王子」
「大丈夫。ここは安全だよ」
 王子は大きく両手を広げて、本拠地を見回した。
「だってここには頼りになる仲間が一杯いるから」
 そう言って笑う王子の笑顔に、カイルは心を惹き付けられた。夜に瞬く星が煌めいて、王子を更にうつくしく映す。
 胸が、締め付けられる。
 自分にばかり向けられた笑顔を、どんどん他の人間が知っていく。優しさを惜しみなく与えて、知らず誰も彼も虜にする。
 こっちの気持ちも知らないで。
 じわりとカイルは熱が生まれるのを感じた。苛立ちと嫉妬が混じった、あまり性質の良くないものだと分かっていても、止められない。そのまま熱に身を任せてカイルは王子の手を無造作に掴んだ。
 強く手を掴まれ、怪訝に王子は「どうしたの?」と尋ねる。だがカイルは答えないままその手を引いた。均衡を崩して転びかけながらも、何とか歩いて無言の背中を見つめる。
 何故カイルが怒ったか、王子には見当もつかなかった。気に触る事を言ってしまったのか。不安になって「カイル」と名前を呼んでも、声は返ってこない。
 無言のままカイルは、王子を自室まで引っ張り込む。中に入ると同時に扉が閉まり、続いてがちゃりと音がした。
 鍵を閉めたんだ。
 王子が理解した時、カイルが近づくいてくる。まるで何かを必死に押さえ込んでいるように、苦しい顔をしている。
「カイ――」
 影が王子を覆った。身体が引き寄せられ、そのままカイルに抱き締められる。ほんのりと酒の匂いが鼻を掠め、酔っぱらっているんじゃないかと王子はカイルを見上げた。