ウェブ拍手お礼小話第9段 ロイの出番が多めな(一話分除く)小話詰め合わせ 

風呂場で
食堂で
自室で
いつだって見破られる




 





「……」

 脱衣場で服を脱ぐカイルとシグレを、ロイはじっと見ている。
 視線に気付いたカイルが、「あっれ、ロイ君男の裸に興味あるの?」とわざとらしく腕を交差させて胸元を隠した。

「やっらしー」
「ばっ、誰が!」
「………」

 じろりと一瞥するシグレにロイは怒って人差し指を突き付けた。

「テメーも! 哀れなものを見る様な顔すんなっ!」
「うるせーな……」

 シグレは脱いだ服を籠に入れる。

「きゃんきゃん吠えてばっかだと、嬢ちゃんに振り向いてもらえねーぞ」
「そうかもねー」

 からから笑うカイルに、ロイは口を曲げむくれる。「どうせオレは気付いてもらえねえよ」と拗ね、二人に背を向けた。
 カイルが半分笑いを堪えながら手を合わせ、謝る。

「ごめんごめん。謝るからさー、なんで見てたのか教えてくれない?」
「………」
「夕飯奢るよ?」
「いや、なんか意外だって思ってよ」

 あっさり機嫌を直し、ロイはカイルたちに向き直った。

「ほら、カイルの方はけっこうあっちこっち傷跡があるだろ。でもシグレの方は少ない。何かそういうのって逆の印象があるからさ」

 ロイにとってはシグレの方が傷跡が多そうに思えた。幼少からずっと人を傷つける方法を叩き込まれてきたのだから、物騒なことをさせられたのも多かっただろう。
 対してカイルは女好きで優男の印象が強く、身体に傷がつくことを厭いそうに見えた。
実際見てみれば、結果は自分の考えと全く逆。ロイはがっかりするでもなく、純粋に不思議になった。
 ふとカイルの笑みが柔らかくなった。腕に走る一つの傷痕を、指先でなぞる。

「……女王騎士となったからには、守るべきものを、何としても守り通したいからね。別に傷跡ぐらいついたって構わないよ」

 それじゃお先に、とカイルはロイの肩をすれ違い際に叩いて浴場へ行った。

「……下手に怪我をしたら血の匂いで気取られるからな」

 シグレは手のひらを軽く握りこむ。

「それに怪我しているところを見られて、泣かれても、困る」

 お前もとっとと来いよ、とロイを促しシグレも浴場の戸を潜る。
 ぽかんと二人を見ていたロイは我に返って、気付いた。

「……何かオレ惚気られた……?」

 二人がそう言う風に言葉を形にするのは、ただ一人、ティーに対してだけ。

「……何か、すっげー損した気分……」

 ロイはうんざりする。そして中途半端に服を脱いでいたせいで寒くなったし身体を震わせ、くしゃみをした。


拍手ありがとうございました!




 






「あーっ、腹減ったぁ!」

 レツオウから注文した料理を受け取り、ロイは空いた席を見つけるとすぐ向かった。混雑時はもたもたしていたら、あっという間に席はなくなる。要は早いもの勝ちだ。
 今回はすんなり席を取れて、ロイは上機嫌になる。鼻歌を鳴らしながらイスに座るロイに、向かいに座っていたゲオルグは目を瞬かせ、フォークを止めた。刺していたチーズケーキがぽろりと皿に落ちる。
 手を合わせる間も惜しく、ロイは箸を手にして勢いよく食べ始めた。どれだけ腹を空かせてたのか。その食べっぷりに、ゲオルグは口元を上げる。

「……何だよ」

 怪訝な顔をして、ロイは口に箸をつけたままゲオルグを見た。
「いいや」とゲオルグは首を横に振った。

「元気がいい、と思っていただけだ」
「……はぁ?」
「あと、お前の爪の垢を、ティエンに飲ませてみたらどうだ、とも思ったな」
「なんだそりゃ」

 ティーの爪の垢を自分に飲ませたい、と言うのはよく聞くが、逆は初めてだ。影武者だからとティーの格好をして振る舞えばそんなこと言われないのに。ロイとしていればたちまちそんな言葉を聞く。
 ロイは箸を置き、「なんであんたはそう言うんだ?」と尋ねた。どんな理由があるか、興味が沸く。

「お前は自分の感情に素直だ。飯を食って腹が満たさせるだけでも幸せそうな顔をする。その素直さがティエンにもあれば、あいつの笑顔も見易くなるだろう?」
「……もしかして、あんた隠れ王子さんバカか?」
「……自覚はないが、ティエンに甘いとは、よく言われるな」
「ま、さっきのセリフでオレもそう思ったけどな」

 大切にされる奴だ。脳裏に金髪の女王騎士とぼさぼさ頭のものぐさ男を思い出し、うへえ、とロイはうんざり舌を出す。

「そう言うセリフ、本人の前で言ってやれよ」
「言って聞く奴でもあるまい」
「確かにな」
 残りを食べ、ロイは食器を片付ける為席を立った。

「ああ、そうだロイ」

 ゲオルグに呼び止められ、不思議そうにロイは肩越しに振り向いた。

「俺はお前も買っているぞ。ティエンへの執念で扱いの難しい武器を使うなんて。大したもんだ」
「そりゃどうも」

 にっと歯を見せロイは笑う。

「いつかは王子さんも超えてみせるからな!」
「ふっ……今度手合わせを見に行かせてもらおう」
「へっ、すごすぎて驚くなよ!」

 大きく意気込み、ロイは食堂を出て行く。

「……互いを見て、学ぶべきところがあるのはいいことだ」

 ティーはロイの良いところ。ロイはティーの良いところを身に着ければ、もっと成長出来る。

「それを間近でみられるのは幸せなのかも知れないな」

 ひとりごち、ゲオルグはロイが出て行ったところから目を離し、とりあえず目の前の幸せを味わうことにした。




拍手ありがとうございました!
ゲオルグはなかなか書きなれません。チーズケーキで無理矢理動かすのが今は精一杯……。


 






 居室に入って直ぐ、カイルは席に着き静かに読書をしていたティーに抱きついた。体重が掛かり、身体が斜めに傾く。
 危うく倒れそうになり、ティーは身体全体を使い、全力でカイルを押し返す。このままでは、本が読めない。
 ティーは頭をカイルの方に向けた。

「いきなりなに」
「ティー様ー。聞いてくださいよー」

 情けない声でカイルが言った。

「さっきまでオレ、ザハーク殿にこってり絞られてたんですー。無表情でねちねちねちねち」
「カイルが下らないことをするからじゃないの?」

 大袈裟に嘆くカイルを、ティーは冷めた目で見た。

「……見回りに出ては、女の人に声を掛け。戻ってきたら今度は侍女の人に声を掛け……。カイルは女の人を口説くことしか考えないの?」
「滅相もない! 今はティー様の事しか頭にありません!」
「……ああ、そう」

 ティーは内心ザハークに同情しながら、カイルの腕を叩いた。

「それで、いつまで僕に抱きついているつもり?」
「傷付いたオレの心が癒えるまで。あ、キスしてくれたらもっと早く癒えるかも知れません」
「ザハーク呼んでこようか?」
「嘘です。すいません。だから呼ばないでください。もう、あれ以上ねちねちねちねち言われたくないんですー……」

 謝りながら、それでもカイルはティーを離さない。

「だから、ちょっとだけ。ちょっとだけこうさせてください。そうしたらオレ元気になりますから」
「……はいはい」

 ティーが返事をすると、抱き締める力が強くなる。
 はあ、と溜め息をつき、ティーは今日の読書を諦め、カイルのなすがままにされた。



拍手ありがとうございました!


 

 





「どうしてアンタはオレと王子さんを見分けられるんだ? あのオバさんだって騙されるのに」
「オバさんって……、サイアリーズ様のこと? それ本人に言ったら恐ろしいことになるよ」

 剣の手入れしているカイルの横で、何気なく様子を見ていたロイが震え上がった。

「怖いこと言うなよ。思い出しちまっただろ」
「もう言っちゃったのね……。あーあー」
「仕方ねえだろ。つい出ちまうんだから」
「素直なのか、それとも馬鹿なのか。たまに判断に困るよね、ロイ君って」
「何だよそれ」
「褒めてるんだよ」

 カイルは刃に布を当て、走らせる。曇り一つない刀身に満足して重さを確かめるように振ってから、鞘に収める。慣れている手付きに感心しつつ、ロイは口を尖らせた。

「んなことはどうでもいいっ。オレの質問に答えろっ」
「んー――……」

 カイルはまじまじとロイの顔を見た。あまりにも近いせいで、思わずロイは身を引く。

「なっ、なにすんだっ!」
「別にちゅーする訳でもなし。いいじゃない。ま、キスするんならティー様にしかしないけどー」
「…………」
「ああ、うん。やっぱりね」

 ロイから離れ、カイルは頷く。

「遠目からやぱっと見だと分からないけど、目の色が違うんだ」
「色?」
「ロイ君はセーブルの大地の色。ティー様はファレナの空の色。どっちも綺麗だけど、オレはティー様のが好き」
「……で、他には?」

 カイルは自分を指差した。

「オレを見る時の、表情。ティー様とロイ君じゃ全然違いまーっす。見る時の目の温度が全然違うもん。ロイ君は冷たいけど、ティー様は熱いのなんのって」

 素で笑い、惚けるカイルに、ロイはうんざりする。

「ああそうかよ。どこまでいっても惚気るつもりかお前は」
「うん」
「即答すんなっ!!」

 ロイの怒鳴り声が、辺り一面に響いた。


拍手ありがとうございました!
当てられ役に最適だと思います、ロイは。