story in the bed シグレ編
事務所の奥にある休息所を覗くと、並んでいる寝台の一つに毛布の山が出来ていた。その端からは茶色い髪がはみだしていて、枕元にはキセルが無造作に置かれている。
恐る恐るティーは足音を殺して寝台に忍び寄る。そこには頭まで毛布を被ったシグレが眠っていた。いつもだったら近づくとすぐ気がつくシグレだが、今日は起きる素振りを全く見せない程、その眠りは深い。
『シグレ君、最近仕事頑張ってるみたいで疲れているんですよ』
ティーの調査依頼を引き受けたオボロは、そう優しい父親の顔をしていっていた言葉を思い出す。そのままの表情をティーに向け、笑みを深くした。
『殿下の、お力になりたんでしょうね』
頬が熱くなり、ティーは咄嗟に手で押えた。オボロの言葉は、面と言われてしまうととても恥ずかしいものに聞こえる。シグレ自身、そんな事を口が裂けても言わないから。
確かにシグレは良く働いてくれる。めんどくさいとか、ダルいとか。文句を口に出しつつも、サボった事は一度もなく、また遠征のメンバーに頼んだ時もまた同様だった。
度重なる遠征に、探偵業。
疲れるのも無理はない。
ティーはそっと手を伸ばして、起こさないようおっかなびっくりシグレの頭を撫でた。茶色の髪は触り心地が良くて、意外に柔らかい。初めての感触に、ティーは顔を綻ばせる。だが、気配に聡いシグレ相手だと、こんな些細な事でも油断は出来なかった。下手に起こして休息を阻害したくはない。
無理、しないで。
名残惜しく一撫でし、もう帰ろうとティーが手を引っ込めかけた時、いきなり毛布から手が伸びてきた。ティーの腕を掴み、もぞもぞと毛布が動く。
ふああ、と気怠るい欠伸を掻いて、シグレが起きる。
「……何だ、帰るのか?」
「あ………、うん」
本当は帰りたくなかったけど。頭に浮かんだ言葉を飲み込み、ティーは作った笑顔で頷いた。
「寝てるのに邪魔してごめん。もう行くから、ゆっくり眠って--------」
シグレが力任せにティーの腕を引く。バランスを崩し、前に傾いたティーは、そのままシグレに受け止められ、共に寝台に倒れ込む。シグレの上に乗っかって抱き締められている状態に、ティーの心臓は飛び跳ね真っ赤になった。
そんなことを気にしないまま、シグレは器用にティーの靴を脱がし床に放る。そして毛布の中に引き込むと、ティーを逃がさないようにしっかり腕の中に閉じ込めて抱き締めた。
「シッ、シグレッ!!」
「どうせお前も寝てないんだろ」
耳元で眠そうな声が囁いた。
「丁度いいからお前も寝とけ」
「ちょ-----」
ティーが言い返すより早く、シグレはすとんと眠りに落ちた。なのに抱き締める力はそのまま。ティーが逃げ出すのは到底無理だった。
シグレの言う通り、ティーはあんまり眠っていない。だけど、こんな状況で眠れる程に剛胆ではない。
抱き締めている温もりが心地よいのか、シグレが擦りよってくる。長い髪に首筋をくすぐられ、ティーは助けを呼びたいけども、でもシグレを起こしたくない心情もあってどうしようかと困り果てた。
すごく、心臓がうるさい。
シグレの抱き枕状態に、今だったら恥ずかしさに死ねそうだ、とティーは思った。
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