1:序章 ミアキスとラハルとリュ−グ
ミアキスとラハルは目の前の最高傑作に、互いに手を高く上げて叩いた。満ち足りた表情で、恥ずかしさに踞る『少女』を見つめる。
「ここまで可愛くなるなんて思わなかったよぉ。ラハルちゃんやっぱり上手だねぇ」
「ははは。元がいいからな」
ラハルの笑みは爽やかで、遠巻きに見つめていたリュ−グは、生き生きする幼なじみの姿につっこみする事も出来ない。ミアキスもいる分、間に割って入ると、自分も彼の二の舞いになりそうだ。
女装するモヒカン。自分の事だが考えるだけでぞっとする。
だが流石に放っておく訳にもいかなくて、リュ−グは意を決する。
「おい、ラハルにミアキス」
「ん?」
「何だ?」
一斉に視線を注がれてたじろぐが、ぐっと堪えた。
「……いい加減、王子を解放したらどうだ?」
「リュ−グ……!」
俯いていた『少女』が、入ってきた助けに安堵してリュ−グを見つめた。
リュ−グは思わず、どきりとする。目の前にいる『少女』は男で----しかもここで一番偉い人なのに。
そう、ミアキスとラハルが嬉々として女装を施していたのは、フェリムアル城の長アル・ティエンだった。いつもの服は脱がされて、フリルとレースがあしらわれている薄青いドレスを着せられている。髪は綺麗に編み込まれ、爪には御丁寧にマニュキアが塗られていた。何処からどう見ても、ティーは女にしか見えない。
以前城に居た時に彼はミアキスに女装をされ、上出来なドレス姿のティーをいたく気に入っていたらしい。ゴドウィン家の謀反後、再開したミアキスは幼なじみのラハルと共謀して再び女装をティーに迫り、見事目論見を成功させている。
ラハルもラハルで乗り気で、騒ぎ暴れるティーを手際良く羽交い締めにし(ある意味不敬罪に値するだろう)、培ってきた技術を施していった。
そうして変わっていくティーを、リュ−グはただ遠くから見つめているしかなかった。
すいません、王子。俺にはコイツらを止められない……!
心の中で必死に謝りながら時が過ぎるのを待っていたが、いざ出来上がってみるとティーの姿は麗しく、鑑賞に値するものだった。
途端に赤くどぎまぎするリュ−グに、ミアキスはにんまりと笑みを浮かべる。
「なーに、リュ−グちゃん。照れれてるの?」
「なっ、ば、何言ってんだよ! そんな訳ねえだろ!」
「の、割には顔が赤いようだが、リュ−グ」
「ぐっ……」
ラハルの尤もな言葉に、リュ−グは詰まる。
「リュ−グ!」
ティーは早く逃げ出したい衝動からか、ラハルとミアキスの間を強引に潜り抜け、リュ−グに抱きついた。
ふんわりと漂う香水の香り。
三つ編みばかりしているせいか、緩く波掛かった髪がゆらゆらリュ−グの腕やら胸やらをくすぐった。
「………!」
一気に心拍が上昇して、リュ−グはティーの肩を掴んで引き剥がす。
きょとんとティーはリュ−グを見て、そして後ろから伸びた二組の手に凍り付いた。
「どうやらリュ−グは王子殿下の助けは出来ないみたいですね」
「そーそー。こんなに顔を赤くしてるんですもんねぇ。もうちょっと見ていたいんじゃないのぉ、リュ−グちゃん?」
「ばっ!」
否定しようとも、顔の赤さがミアキスの正しさを物語っている。味方がいなくなり、ティーは見る見るうちに元気をなくす。
「王子。俺は」
「でもぉ、これから王子は本拠地巡りの度に出るので、これ以上リュ−グちゃんは見られないのです!」
「はぁ!?」
ティーとリュ−グが同時に素っ頓狂な声をあげる。いつの間にそんなに大袈裟な事になったのか。最初は着せて直ぐ終りだった筈なのに。
「ここまで、素晴らしい出来なんだ。これは他の奴にも見せないとな」
涼やかな笑みで、恐ろしい事を言うラハルが恨めしい。ティーは睨むが、二人は聞かない。両側を捕らえられ逃げ道を閉ざすとさっさと歩き出す。
「わ、ちょ、リュ−グ。た、助け---------」
助けの声も届かず、ティー達は出ていく。これからの騒動が手に取るように分かって、リュ−グは自分の無力さを呪った。
ついでに、不覚にティーへときめいてしまった事にも。
「……本当にすいません……! 王子……!!」
リュ−グの声も届かずに、さっそく歓声の声が何処かで上がった。
拍手ありがとうございました!
ラハルとリュ−グの口調はまだ掴めてませんが……。
女装王子、めんこいめんこい。(夢見てる) |