ウェブ拍手お礼小話第2段 ミアキス&ラハルの王子女装編
前もって注意。管理人はこの話を書いている時点でまだラハルの女装を見てません。でした。
見たよ。予想以上におかしかったよラハルさーん……!

サウロニクス組
トーマ
シグレ
ベルクート
シュンミン
ロイ

再びシグレ
カイル



 

1:序章 ミアキスとラハルとリュ−グ

 ミアキスとラハルは目の前の最高傑作に、互いに手を高く上げて叩いた。満ち足りた表情で、恥ずかしさに踞る『少女』を見つめる。
「ここまで可愛くなるなんて思わなかったよぉ。ラハルちゃんやっぱり上手だねぇ」
「ははは。元がいいからな」
 ラハルの笑みは爽やかで、遠巻きに見つめていたリュ−グは、生き生きする幼なじみの姿につっこみする事も出来ない。ミアキスもいる分、間に割って入ると、自分も彼の二の舞いになりそうだ。
 女装するモヒカン。自分の事だが考えるだけでぞっとする。
 だが流石に放っておく訳にもいかなくて、リュ−グは意を決する。
「おい、ラハルにミアキス」
「ん?」
「何だ?」
 一斉に視線を注がれてたじろぐが、ぐっと堪えた。
「……いい加減、王子を解放したらどうだ?」
「リュ−グ……!」
 俯いていた『少女』が、入ってきた助けに安堵してリュ−グを見つめた。
 リュ−グは思わず、どきりとする。目の前にいる『少女』は男で----しかもここで一番偉い人なのに。
 そう、ミアキスとラハルが嬉々として女装を施していたのは、フェリムアル城の長アル・ティエンだった。いつもの服は脱がされて、フリルとレースがあしらわれている薄青いドレスを着せられている。髪は綺麗に編み込まれ、爪には御丁寧にマニュキアが塗られていた。何処からどう見ても、ティーは女にしか見えない。
 以前城に居た時に彼はミアキスに女装をされ、上出来なドレス姿のティーをいたく気に入っていたらしい。ゴドウィン家の謀反後、再開したミアキスは幼なじみのラハルと共謀して再び女装をティーに迫り、見事目論見を成功させている。
 ラハルもラハルで乗り気で、騒ぎ暴れるティーを手際良く羽交い締めにし(ある意味不敬罪に値するだろう)、培ってきた技術を施していった。
 そうして変わっていくティーを、リュ−グはただ遠くから見つめているしかなかった。
 すいません、王子。俺にはコイツらを止められない……!
 心の中で必死に謝りながら時が過ぎるのを待っていたが、いざ出来上がってみるとティーの姿は麗しく、鑑賞に値するものだった。
 途端に赤くどぎまぎするリュ−グに、ミアキスはにんまりと笑みを浮かべる。
「なーに、リュ−グちゃん。照れれてるの?」
「なっ、ば、何言ってんだよ! そんな訳ねえだろ!」
「の、割には顔が赤いようだが、リュ−グ」
「ぐっ……」
 ラハルの尤もな言葉に、リュ−グは詰まる。
「リュ−グ!」
 ティーは早く逃げ出したい衝動からか、ラハルとミアキスの間を強引に潜り抜け、リュ−グに抱きついた。
 ふんわりと漂う香水の香り。
 三つ編みばかりしているせいか、緩く波掛かった髪がゆらゆらリュ−グの腕やら胸やらをくすぐった。
「………!」
 一気に心拍が上昇して、リュ−グはティーの肩を掴んで引き剥がす。
 きょとんとティーはリュ−グを見て、そして後ろから伸びた二組の手に凍り付いた。
「どうやらリュ−グは王子殿下の助けは出来ないみたいですね」
「そーそー。こんなに顔を赤くしてるんですもんねぇ。もうちょっと見ていたいんじゃないのぉ、リュ−グちゃん?」
「ばっ!」
 否定しようとも、顔の赤さがミアキスの正しさを物語っている。味方がいなくなり、ティーは見る見るうちに元気をなくす。
「王子。俺は」
「でもぉ、これから王子は本拠地巡りの度に出るので、これ以上リュ−グちゃんは見られないのです!」
「はぁ!?」
 ティーとリュ−グが同時に素っ頓狂な声をあげる。いつの間にそんなに大袈裟な事になったのか。最初は着せて直ぐ終りだった筈なのに。
「ここまで、素晴らしい出来なんだ。これは他の奴にも見せないとな」
 涼やかな笑みで、恐ろしい事を言うラハルが恨めしい。ティーは睨むが、二人は聞かない。両側を捕らえられ逃げ道を閉ざすとさっさと歩き出す。
「わ、ちょ、リュ−グ。た、助け---------」
 助けの声も届かず、ティー達は出ていく。これからの騒動が手に取るように分かって、リュ−グは自分の無力さを呪った。
 ついでに、不覚にティーへときめいてしまった事にも。
「……本当にすいません……! 王子……!!」
 リュ−グの声も届かずに、さっそく歓声の声が何処かで上がった。


拍手ありがとうございました!

ラハルとリュ−グの口調はまだ掴めてませんが……。
女装王子、めんこいめんこい。(夢見てる)



 

2:トーマ

 龍馬騎士団の部屋から出て来た少女の姿に、トーマは眼を奪われた。ミアキスとラハルに両腕を囚われているのが気に掛かったが、そんなのは吹き飛ぶ位に。
「ミアキスねーちゃん!」
「あらぁ、トーマくん」
 走って近寄ると、何故か少女は俯いてトーマを見ないようにする。せっかく可愛いのに、隠すなんてもったいないとトーマは思った。だから、真下まで駆け寄って下から見上げる。いつも背が高くなりたいと思っていたが、こういう時は小さくて良い。
「こんな可愛いねーちゃん、ここにいたっけ?」
「………」
「あらあら、トーマくんは素直ねぇ」
 ミアキスはふふふと口元に手を当てて、笑った。
「良く見てみて? さぁて、この人は誰でしょう〜?」
「え………?」
 トーマは相変わらず視線を反らして、自分を見ようとしない少女を見た。良く見れば、誰かに似ているような気がする。尤も尊敬しているこの城の主に。
「……もしかして?」
 左耳の耳飾りに、トーマは確信した。
「王子、さま?」
「ばれちゃいましたね。王子」
 ラハルがくすくす笑う。
「余計な事を……!」と少女が睨んだ。それはトーマが良く見た事のある表情で(例えば、カイルが相手の時に)。思わず「あっ」と驚く。
「やっぱり、王子様だ!」
「どう、トーマ君? 王子の綺麗なお姫さま姿は〜」
「どうって……」
 トーマは一歩後ずさり、ティーを爪先から頭の天辺まで見つめてから、大きく頷く。
「すっげえ、美人じゃん! すげーよ王子様!!」
「あああああああ……」
 項垂れるティーを余所に、トーマははしゃぐ。
「こうして見てると、本当にファレナの女王様みたいだよ!」
「そうですよね〜。まぁ、女王は姫様がなるんですけどね」
「そうだけど! もし王子様が女王様になったら、オレ女王騎士になって王子様を守ってあげたいよ」
「ふふふ。そこまで言ってくれる人がいてくれて、王子は幸せですね」
 ……今はあんまり嬉しくない。
 ティーは心からそう言いたかったが、トーマの純粋な眼に何も言えず、ただただ痛い程感じる真直ぐな視線を受け止め続けた。


拍手ありがとうございました!

トーマもめんこいめんこい
幻水5に関しては結構節操ないみたいです自分。



 

3:シグレ

「おい、お前ら」
 剣呑な声にミアキスとラハルは後ろを振り向いた。
「あら、シグレさん」
「………」
 煙管を銜えシグレが通路の真ん中に仁王立ちしている。眼は見えないが、恐らく睨んでいるだろう。いつもは気怠るさを強調している事が多い彼だが、ティーとサギリに関しては例外だ。女装されたティーを見つけ、すぐに状況を把握したのだろう。
 案の定、視線で助けを求めるティーにシグレはさらに殺気まで立ち上らせる。
「……何、こいつで遊んでいるんだ。嫌がっているんだから、離してやれよ」
「いやですぅ」「お断りします」
「……お前らな」
 即座に却下され、シグレの口が引き攣る。
「だってー。潤いが少ないんですから、これぐらいしたって罰当らないでしょお?」
「罰が当る前に、少しはこいつの気持ちも考えてやれ……。それに泣きつかれたら困るのはこっちだっつうの」
「シグレ………!」
 シグレの優しさに、ティーは眼を潤わせる。それを見てシグレは「ったく、そんな眼で見るなって」と頭を掻くと、改めてミアキスとラハルを見遣った。
「……と言う訳でティーを離せ」
「いやですぅ」「お断りします」
「………」
「だって私たちまだまだ楽しみたいんですから。----ラハルちゃん」
「ああ」とラハルはティーの背中と膝裏に腕を差し入れ、横抱きにする。
それではこれで失礼」
「じゃねー」
 ミアキスとラハルは爽やかに笑って、走っていった。いきなりでシグレの動く間もなく消えていく。
 ティーの悲鳴が木霊した。
「どうしてこう……、あいつの周りは面倒な奴ばっかり集まってくるんだ……」
 大きく溜め息をついて、シグレはその場でしゃがみ込む。

「ああ、めんどくせー………」

 頭の痛む思いに、顳かみを押えた。


拍手ありがとうございました!

シグレは多分これから私的に優遇されるキャラかと。
出番が多くなり、そしてカイルとの仲が悪くなっていく感じで。
何てったって、お兄ちゃんポジション。
そういうの作るの好きなんです(威張って言う事じゃない)



 

4:ベルクート

 一目合ったその日から、恋の花咲くこともある。



「ねえ、いつ僕は解放されるの」
 ティーは不満たっぷりに声を漏らした。
「え〜、まだまだですよぉ」
 すげなく懇願を却下して、ミアキスは鼻歌混じりに歩きながらティーの手を握っている。後ろではラハルが「本当にミアキスは変わらないなぁ」と笑いながら二人を眺めていた。
「ラハル。ミアキスをいい加減何とかしてほしいんだけど」
「それは無理です。ミアキスは俺とリュ−グ合わせて三人の間で一番強いんですから。力関係」
 だから素直に従っていた方が得策ですよ。
「………」
 全く助ける気のないラハルをティーは恨めしく思う。
 トーマ、シグレと会った後はそのままフェリムアル城の施設を順繰りに歩かされ、見世物になって来たのだ。そこかしこで沸き上がった歓声や視線に、もうそろそろティーも限界が近い。早く自室に戻って、胸元を締め付けるドレスを破る勢いで脱ぎたかった。
「もう……十分じゃない?」
「いいえ。駄目です。王子、あの時女装断ってくれたんですから、これぐらいはしてもらわないと」
「………」
 リムの遠征前夜にミアキスが持ち掛けてきた女装話。大切なリムと離れて切羽詰まっていた気持ちは分かるが、そこまで引きずられてしまうのも困る。
 何とかしないと……。
 手を引かれたまま、ティーは何とか打開策を得ようと頭を捻る。
 かつかつとヒールの高いミュールが歩く度に音を立てる。履きなれない靴は、考えに耽るティーの均衡を失わせた。
「----わっ!」
 石畳の間にヒールが挟まり、ティーの身体がつんのめった。「きゃあ」と転んだ拍子に後ろに引かれたミアキスが思わず手を離し、ティーの目前に石畳が迫る。
 やばい!
 ティーはぎゅうと眼を強く瞑った。だがいつまで経っても、自分は地面に身体を打ち付けない。
「----大丈夫ですか?」
 耳元で呼び掛けた声にゆっくり瞼を開くと、ティーは寸での所で横から伸びて来た手に抱きとめられていた。
「ベルクート、さん……?」
 ティーに名前を呼ばれたベルクートが、「どうして私の名を?」と何故か頬を赤くして横を向く。
「……え?」
 もしかして自分がティーだと分かっていない?
 ティーは自分の名前を言おうとしたが、ベルクートがティーの身体を立たせる方が早かった。
「怪我はありませんか?」
「え? あ、ああ。うん無いけど」
「……良かった」
 安堵して笑いかける顔には、いつものティーに向けるそれとは微妙に違っている。いつかマリノに抱きつかれた時と同じ反応。
 やっぱり、分かってない。勘違いしている!
 ややこしい方向に話が向かっているんじゃないか。誤解を解かないと。
「----もうっ。注意してくださいよ。せっかく着飾ったのが駄目になっちゃう所じゃないですかぁ」
「……ミアキス」
 王子よりも女装の具合を心配して、ミアキスはティーの腕に自分のを絡ませると引き寄せた。
「まだまだ見せたりないんですからねっ。----ベルクートさん、助けてくださってありがとうございましたぁ」
「あ、いえっ。私も貴女が怪我をしなくて良かったですから」
「ちょっ-----」
「それじゃあ、私はこの辺で失礼しますね」
 頭を下げ、そそくさと去っていくベルクート。待ってくれとティーが手を伸ばしても、届きやしない。虚しく指先が震えて肩を落とした。
「この分だと、あの人完全に女装した王子に惚れましたね」
 本気で他人事の様にラハルが言う。
「王子も十分、女装の能力がありますね!」
「嬉しくない。全ッ然嬉しくない!!!」
「照れないでくださいよ、王子ぃ」
「照れてない------! ベルクートさん、僕はティーなんですってばー------!!」
 半ば自棄になったティーが叫んでも、最早遠くに行ってしまったベルクートには届かなかった。

 後日、真剣な表情で相談を受けたティーは、また頭を抱える羽目になる。


拍手ありがとうございました!

だんだん王子がツッコミになってきた。
ベルクートさんは、まぁ、純情ですから。女装した王子に気付かなくて、恋に落ちたらいいと思うのは私だけですか。



 

5:シュンミン


「王子様、とっても可愛いの!」
 シュンミンはティーの姿を見るなり、ふふふと袖で口元で隠すようにして笑った。
「でも、私はいつもの王子様の方が、もっと好きなの!」
「シュンミン………!」
 さっきまで女装姿を褒めちぎられて、褒めちぎられ過ぎて疲れていたティーに、シュンミンの言葉はとても嬉しかった。
 同じ年頃の妹がいるせいだろうか。ティーはシュンミンにも甘い。眼を細め、屈んでもう一人の妹みたいな存在の頭を優しく撫でてやる。
「ありがとう。シュンミンは優しいね」
「えへへ」とシュンミンもティーの手を嬉しそうに受け入れる。傍から見れば、立派な兄妹-----と言うより姉妹に見える。
「あ〜あ。ここに姫様もいればなぁ。凄く嬉しいのに」
「お助けした時に、またすればいいだろ?」
「そっかぁ、そうだねラハルちゃん」
 後ろでぼやくミアキスと、さらりとティーにとっては恐ろしい事を言うラハルに、ティーはシュンミンに向けた笑みのまま、
「誰もやるとは言ってないからな」
 冷たい声で却下した。
「わぁ、王子怖ーい」
「誰のせいだと思ってるの」
 全く、と溜め息をつくティーにシュンミンが「あのね」と躊躇いがちに尋ねる。
「あのね。王子様が嫌じゃなかったら----一回ぎゅうってさせてほしいの」
「……ん、どうしてだい?」
 態度の切り替えの見事さに、ミアキスが「すごいです」と言ったのは聞こえないふりをする。
 シュンミンは恥ずかしそうに俯きながら続きを言った。
「あのね。わたし、あんまりお人形さんとか持った事ないから。ぎゅうって抱き締めたかったの」
「あ………」
 思わずティーはレツオウのいる調理場を振り向いた。申し訳なさそうに軽く頭を下げるレツオウに、朧げながら理解する。
 各地を放浪するように旅をしてきた親子。各地で二人は料理の腕を奮ってばかりで、他の事はしていなかったのだろう。
「……いいよ」
「え?」
「特別だ。シュンミン、僕で良かったら思いっきりぎゅうってしてもいいよ」
「わあっ……!」
 見る見るうちに顔が輝き、シュンミンがティーに抱きついた。小さな女の子の力は弱いが、とてもいとおしい。いつかリムがそうしてくれたような暖かさに、ティーの顔は自然とハイティエンラン軍の主から、優しい兄に変わっていた。


拍手ありがとうございました!

シュンミンもめんこいめんこい。
新女王遠征後の彼女の会話が凄い好きです。王子様が凄く好きなんだなあって思える。

さすがにミアキスとラハルもからかえなかった模様。



 

6:ロイ


「気色悪ぃ。何だよその格好」
 シュンミンと別れてから鉢合わせしたロイは、女装のティーを見てふんと鼻を鳴らした。
「大体、俺と同じ顔をしてんのに、女装なんてするなよな。何かオレが女装しているような感じもして、寒気がするぜ」
 酷い言われようにティーはむっとする。いくら無理矢理着せられたとは言え、そこまで言われるのは気分が悪い。
 それは女装をさせたミアキスとラハルも同じだったようだ。二人とも不機嫌を滲ませてロイを見た。
「何を言うんですかぁ? こーんなに可愛いのに!」
「そうだ。俺が全力を出してやったんだから、気持ち悪い筈がない」
「………お前ら何言ってんだよ。ほんと馬鹿だな」
 ロイは呆れる。さらさらと茶色の髪が彼の肩口をくすぐった。
「………」
 ティーは指を顎にやり、ロイを凝視する。
 茶色い髪。
 ミアキスは以前、リムに会えないからと自分に女装を強要した。
 自分とロイはそっくり。(嫌な程に)
 ロイの髪は茶色。
 リムの髪も茶色。


 これだ。


 ティーはミアキスの耳元に口を寄せ囁く。
「あのさ、ミアキス」
「……何です?」
「ロイの髪って、リムの髪色に似ているよね」
「-------あ!!」
 ミアキスはティーの真意に気付いたようだ。にんまりと笑うと、長らく掴んだままだったティーの手を離し、ロイににじり寄る。
 いきなり矛先が向けられ、ロイは思わず一歩たじろいだ。
「な、何だよ!」
「ローイくぅーん? この前のお風呂での私の発言を実現させる気ありません……?」
「はっ、って、-----ええっ!?」
「きっと姫様に似た、可愛い姿になるでしょうねぇ……」
 ロイは青ざめた。何でいきなりオレが女装する事になっているんだ!
 ミアキスの後ろで、ティーが掴まれたままで痺れてしまった手首を回しながら、ロイを見る。にっこりと、それはもう清清しい笑顔で言ってしまった。
「大丈夫。ミアキスもラハルも腕は確かだから!」
「て、テメエ------!!!」
 殴りたくても殴れない。目の前にいるミアキスとラハルが怪しい手付きと共に、獲物を狩る眼で自分を見ている。一瞬でも隙を見せたら、あっという間にティーの二の舞いだ。
 それだけは絶対に嫌だ。
「くっそ……。覚えてろよ-----!!」
 捨て台詞を残し、ロイは一目散に逃げていく。
「あー。逃がしませんよぉ! ----ラハルちゃん、行くよっ!」
「ああ!」
 目論見通りミアキスとラハルはロイを追い掛けて、走っていった。ティーはようやく名実共に二人から解放され、心から安心する。
「ありがとうロイ。後でリオンと一緒に見に行くから……!」
 その前に、着替えないと。
 ティーは一人そそくさと一目を忍んで、戻り始める。とっとと服を脱いで、楽になりたい。
 嬉しそうに小走りで去っていくティーの背後で、ロイの絶叫が響いた。


拍手ありがとうございました!

黒王子。ロイ哀れ。
リムに似せた女装をするならロイの方が適任だと思った。



 

7:再びシグレ

 螺旋階段の下で様子を窺うティーの後ろ姿を見つけたシグレは、「おい」と心持ち急ぎながら歩いた。
 振り向いたティーはたちまち嬉しそうに言う。

「シグレ!」
「やあっと捕まえた……。ったくちょこまか動きやがって」

 シグレはラハル達に逃げられた後も、面倒くさいと言いながらティーを探していた。幸い目撃者が大勢居たので、それらの証言にそって歩いただけでこうして見つける事が出来た。
 だが、それほどにティーの女装姿が触れ回ったかと思うと厄介だなと頭が痛む。

「お前な。もう少しはっきりものを言ったらどうだ。そんなだから女装なんてされるんだぞ」

 ひらひら足に纏わりつくスカートをティーは摘みながら困って首をかしげる。

「でも、ミアキスやラハルに同時に迫られると逃げられないと言うか……。シグレだって分かるよね?」
「俺はあいつらとあまり話した事ねえから分からねえ」
「………」

「それよりも」とシグレはティーをまじまじと見つめ、

「お前どうやってここから戻る気だよ。下手すれば、見付かるぞ」

 誰か、とは言わないが、心当たりがあり過ぎるティーは自分を抱き締めて震えた。
 しっかり恐怖を植え付けられたティーに溜め息をつき、シグレは咄嗟に思い付いた提案を言ってみる。

「……とりあえず、事務所に来るか? そこなら俺の着替えがある。それよりはマシだろ?」
「これ……、脱ぐのが難しい……」

 確かにティーが着せられたドレスは、レースやフリルがふんだんに使われ、なおかつ背面は無数の紐で縛り付けられている。ティーだけでは勿論、シグレが手を貸しても脱がせられるかどうか分からない。

「……切るか?」

 紐の一つの端を摘み、シグレが呟く。

「駄目なんだ……。もし切ったりしたら、もっと凄い服を……着せるって……」

 だんだんと俯くティーに哀愁が漂って、シグレは眼も当てられない。ラハルは兎も角、ミアキスは女王騎士。一応護るべき存在であるティーを、自己満足の為にここまでするとは。底知れぬ脅威を感じる。

「ルセリナだったら、大丈夫だろうし、手伝ってくれると思うけど。でも取り合えずもう誰にも見られたくないから、自分の部屋に戻りたいし。……」
「……ったく仕方ねえな」

 シグレは自分の羽織を脱ぐとティーの肩に着せかけてやる。ふわりと自分の姿を隠したそれに驚いてティーが上を向くと、「こっち来い」とシグレが手招きした。

「それならまだ分かりにくいだろ。お前に泣かれると目覚めが悪くなりそうだから、部屋まで連れてってやる。------めんどくせえけどな」

 言い訳がましく言うシグレ。ぶっきらぼうな優しさが、ティーにとってはとても嬉しい。

「ありがとう」
「礼を言うぐらいなら、もう少し断るってことを覚えろよな」
「……うん」



拍手ありがとうございました!

おにーちゃーん。
シグレはサギリと王子を護る時だけアグレッシブになればいいと思いますよ。



 

8:カイル

 シグレの手引きで、誰にも見付からず自室に戻れたティーはやっと安心して、ベットに座り込んだ。早くこの鬱陶しいドレスを脱ぎ捨ててしまいたい。
 ティーはシグレがルセリナを呼んでくるまでの我慢だと、そわそわする。
 ノックの音。
 シグレがルセリナを連れて戻ってきたんだ!
 呼んでくるにはまだ早い気もしたが、気の急いていたティーは、疑問も持たずに扉を開ける。

「シグ……!」

 望んでいた相手ではなくて、超危険人物が立っている事にティーは固まった。

「はーい。こーんにーちわー」
「!!!!!!」

 にっこり笑う金髪の女王騎士を認め、ティーは本能で扉を閉めようとする。だが、手が伸び扉を掴まれ阻まれた。
 どうして、カイルがここに。いきなりの登場に、ティーは言葉が出てこない。ぱくぱくと金魚のように口をぱくつかせる。

「いやー。可愛いですねー。そこかしこで噂になってましたよー」

 カイルの力は強く、だんだん押し負けていく。渾身の力を込め、ティーは扉を引くがやはりそこは体格の差で叶わない。腕が強張り力が抜けた瞬間を見はかって、カイルが部屋に入り込んだ。

「ちょ、ば、でて……」
「いいえー。そんなティー様を見ちゃったら出ていける訳ありませんって!」

 ティーとの距離を詰め、カイルはにじり寄る。逃げようとしても後ろはベッド。余計に状況が悪くなる要素しか見当たらない。
 さながら自分は狼に食われる兎か。と焦りながら、何とか事態を打破しようと試みる。

「そ、そんな事言われても、もうすぐシグレとルセリナが来るのに……!!」
「それならご心配なく。さっきそこで会って、帰しておきましたから」
「………な!!」
「まー、シグレの視線が突き刺さって怖かったですけど、何とかしますし?」

 カイルはティーの肩を押し、ベッドに後ろから飛び込ませる。揺れる身体。レースとフリルがひらひら舞った。
 不味い不味い不味い。この状況は不味すぎる。ティーは青ざめて、肘を突いて起き上がるが、直ぐに覆いかぶさるカイルに押しとどめられた。

「大丈夫ですよ−」

 カイルが耳元で囁く。

「オレ、こういうの上手いですから」

 何が。
 聞く前にティーの唇はカイルのそれで塞がれて、持ち上がっていた頭はシーツに沈む。ゆるゆるとスカートの端から忍び寄る手を観念して受け入れ、ティーはぎゅっと眼を瞑った。


 そして事が終わり、与えられた熱に唸りながらも、ようやく眼を開けたティーの眼に、綺麗に畳まれたひらひらの服が映ったとか。

「………何でこんなに綺麗なの」
「だから言ったでしょ。慣れてるって」
「出てけ」


終われ


拍手ありがとうございました!

最後の王子の出てけは嫉妬が入り交じってるんです。(慣れてるって事はそれほど女の人と付き合ってたのかよ!みたいな)そんな感じで。
女装王子シリーズは一応おしまいです。おつき合いありがとうございました!