ウェブ拍手お礼小話第1段

 



 こっそり王宮を抜け出したティーの元に、同じく公務をサボってまで彼に付き合ったカイルが戻ってきた。
 王宮を出ても身分がばれないよう着替えたカイルの手には、小振りの紙袋。
「おまたせしました」とカイルは笑う。
「まだ出来たてですから。あつあつですよ−」
「本当だ………」
 覗き込んだ袋に詰められたのは、暖かな湯気を昇らせる饅頭。美味しそうな匂いに、ティーは思わず唾を飲み込む。
「でも、どうして?」ティーは疑問を口にした。「いつもはもう少し冷めてたりとかするのに」
「え?」カイルの目が急に泳ぐ。「それはまぁ、オレも結構顔が広かったりするのでー。融通が聞いちゃったりとかするんですよ」
 挙動が怪しくなったカイルに、ティーは原因に思い当たり冷たい目を向ける。
「-----要は饅頭屋のお姉さんを口説き落としたって事なんでしょ?」
「ち、違います!」
「嘘くさい」
 ティーはカイルから紙袋を奪い取り、一人でさっさと歩き出す。
「僕カイルのそういう所全然信用してないから。じゃあね」
「じゃあねって……。ティー様ッ! 何処行くんですか!」
「カイルには教えなーい」
 足早に歩くティーを、泣きそうな形相でカイルが追う。必死の様子をこっそり覗き、ティーは本の少し胸がすっとして、それからほっとした。


要は嫉妬してたんですよ。王子様。
自覚はないけどね!



 



「カーイールゥ」
「げっ。……ミアキス」
「何なんですかぁ? その『げっ』は」
「お前のその声の時は油断するなと俺の直感が告げてるんだよ」
「失礼な事言いますねえ。せぇ〜かくいいもの持ってきてあげたのに」
「------何だよ」
(懐から小さな袋を取り出し)「じゃっじゃじゃーん! 何とティー様特製クッキーだ!」
「何だとっ!!!!!」
「姫様と二人。頬に小麦粉をつけつつはしゃぎながら初めてのお菓子作りに興じる姿……。それは微笑ましくもとても可愛らしく」
「………」(悔しげに拳を握る)(どうしてその時に居なかったんだ俺!)
「そしてちょっぴり焦げたけど頑張ったオーラが出ているこの完成品! ----------カイル、欲しい?」
「欲しい」(即答)
「………」
「………」
「………」(無言で包みを開ける)
「って、あー!!! 何食ってんだお前!!!! しかも一気に食いやがって!!!!!」
「--------ゴチでした!!!!!」
「ミ−ア−キースー!!!!!!!」



「----兄上」
「ん、どうしたんだい。リムスレーア」
「あそこでミアキスとカイルが鬼ごっこをしておる」
「………(剣振り回してるよカイル……)(ミアキスはミアキスでいやにイイ顔で笑ってるし)」
「わらわも仲間に入れてもらえんかのぅ……」
「……危ないから、僕と一緒に本でも読もうね。さ、行こう」
「???」


天然サディスティック!
……ってこんなんでいいのかしら。


 


発売前にやってしまえ妄想小話
リオンの前にカイルが王子専属の護衛だったらいいなーな話です。
王子はまだ子供でよろしくお願いします!

 


 毛布の中でむずがる小さな手に、傍らのカイルは閉じていた瞼を開けた。
 寝台で横たわっていたティーが、身体を丸めかたかたと震えている。カイルは何時不審者が侵入してきても対処出来るよう握りしめていた剣を壁に立て掛け、そっとティーに呼び掛けた。
「どうかされましたか。ティー様」
「こわい、夢、-----見た」
 まだ幼さの残る舌足らずな声は、夢の残滓を引きずって怯えている。余程こわい夢だったのだろう。シーツを握りしめる手があまりの力に白くなる。
「そうですか。でももう大丈夫ですよ。ここには俺がいますから」
「ちゃんといてくれる?」
「ええ。ほら、こうすればちゃんと俺がいるって分かるでしょ?」
 ティーの手を、カイルの手が包む。壊れないようにこわごわと力を込めると、ティーは安心して表情を崩した。
「うん、本当だ。カイルがいるね」
「ティー様が眠るまでこうしています。ほら、瞼を閉じて」
 空いた手でそっとティーの目を覆い、ゆっくり離す。幼子の瞳は閉じられ、静かな寝息が聞こえた。
 目の匙を濡らす涙をそっと指先で拭う。銀の髪を撫で、あやすように優しくぽんぽんと肩を叩いた。

 こんな時、この子が愛しくなる。
 余りにも自分の立場を理解しているが故に、辛い事も心のうちに押し込めて、何も、誰にも(それこそ、家族にも)言おうとしない。
 愛しい子。
 いつか、彼が大きくなった時、自分はそれを守る為に隣に立てるだろうか?
「----立ってみせるさ」
 小さく決意を口に出す。強く手を握る。
 これから彼が進む道は、決して平坦なものではないだろう。険しく辛く、時には傷付く事だってあるかもしれない。
 そんな時、すぐにティーを守れるよう。俺は強くなろう。
「だからティー様は前を見続けていてくださいね。俺は貴方の後ろに立ち、貴方の背を守り続けますから」
 カイルは薄く笑うと、ティーの濡れた目の匙にそっと口付けた。



色々幼い王子の面倒をカイルが見ていたとか考えると、萌えるんですが。