「きれい……」
 載っていた馬から草原に降り立つ。空を見上げたティーは、広がる星の数々に息を飲んだ。
 本で星座はいくつか知っている。けれど、やはり本物は迫力が違う。あまりの綺麗さに、飲み込まれそうな錯覚を感じる。
「わざわざ遠くまで来た甲斐がありましたね」
 走らせてきた馬の綱を近くの木に止め、カイルがティーのもとへ歩きながら、空を見上げる。
「太陽宮は太陽の紋章でどうしても見えにくくなっちゃいますから」
 太陽宮に安置されている太陽の紋章。その強大な力ゆえ、紋章からは絶えず眩い光が放たれている。それは太陽宮から空へと突き抜け、ソルファレナは他と比べ夜の闇が薄い。そのせいで、星の瞬きも他より見えにくくなってしまっていた。
「でも内緒で出てきて良かったのかな。心配してなければいいけども」
 ふと不安になったティーがカイルを見た。「大丈夫ですって」とカイルが陽気に笑ってみせる。
「フェリド様ならこのぐらい笑って許してくれますよ。男子たるもの多少の冒険はしておくべくだ! とかね」
 カイルの言葉に、ついティーは納得してしまう。こっそりお忍びで城下に出てもフェリドは怒らない。それどころか楽しかったか、などと聞いてくるほどだ。もし今回のことがばれても豪快に笑ってよくやった、と言いそうだとティーは思った。
 くすくす笑いながら、さらにティーは尋ねてみる。
「じゃあ、もしリオンやリムが怒ってたら?」
「その時はまたみんなで出かけましょう」
 片目をつむり、カイルは立てた人さし指を小さく振った。その仕草が面白くて、ついティーは笑ってしまう。
 不安が払拭され笑うティーに、カイルは目を細めながらその肩を抱き寄せる。そして耳元に唇を寄せ、小さく囁いた。
「でも今日は二人で来たかったんです」
「……?」
 ティーは目を丸くしてカイルを見上げた。すぐ近くにあるカイルの顔。至近距離で見つめあい、カイルは優しく言った。
「今日は天の河に間を阻まれた恋人同士が会える年に一度の日なんですよ。どうせならその二人のようにオレもティー様と二人きりで星見たくって」
「僕たちは毎日顔を合わせているのに?」
「リオンちゃんや姫様たちと一緒に、でしょー?二人きりじゃないですよ」
 それとも、とカイルはティーに問いかける。
「……それともティー様はオレと二人きりは嫌?」
「……嫌じゃ……ないけど……」
 ティーもまた、カイルと二人きりでいたいと思う時がある。誰にも邪魔されず、カイルだけと過ごせる時間が。
 素直にその言葉が出せなくて、ティーは照れ隠しに口を尖らせた。
「カイルってあからさまな言葉で口説くよね。たまに」
「嫌ですか」
「嫌じゃないけど、落ち着かない。ゆっくり星を見させてよ」
 言いながら、ティーはカイルに身体を寄せる。近づく温もりに、カイルは愛しい人を抱きしめた。
「仰せのままに。でもそばにはいさせてくださいね」
 空を見上げる二人の頭上には、静かな時間を見守るように星たちが輝いていた。



08/07/07
七夕創作かいねぎ編
やっぱり幻水の世界にはなさそうですよね、七夕
ハヅキの故郷とかにはありそうな気もしますが……。