それじゃお先、と通り過ぎる声にティーが振り向くと、準備を整えたロイが浴場の戸を開けていた。脱衣場には一緒に入ったのに、素早く服を脱いでいるロイにティーは驚く。

「もう着替えたの? 早いよ」
「アンタが遅いんだろ。脱ぎにくい服着てるから他の奴もとっくに行ってるぜ」

 顎をしゃくるロイにつられ回りを見渡すと、なるほど一緒に来ている仲間は皆居なくなっている。最後の一人だったロイも裸で寒いのか、手で腕を擦り「このままだと風邪ひいちまう……。先に行くからさっさと来いよ」とティーの返事も待たずに浴場へ行ってしまった。
 あ、と思わずロイを引き止めようとしたティーは仕方なく伸ばしかけた手を戻す。寒いのだから温まりたいのは分かるけど。

「もう、少しぐらいは待っててくれてもいいのに」

 ティーは小さくぼやきながらも仕方ない、と思う。止め具が殆ど後ろにあり、幾重かに重ねて着ているティーの服は着る時はもちろん、脱ぐのも面倒臭い。ティーの影武者をしているロイは、それを嫌と言う程実感している。そんな彼の言葉は納得出来る強さがあった。
 肌がむき出しになっている肩に寒気を感じ、ティーは震えた。温まろうと風呂につかりに来ても、もたもたして風邪を引いたりしたら笑えない。
 ティーは急いで服を脱ぐ。やはり後ろ手では見えない箇所の釦は外しにくい。もう少し素早く着替えられるよう、考えるべきか。
 わたわたと手間取りながらようやくティーは全て脱ぎ終えた。腰にタオルを巻き、他の仲間が待っている浴室に足を向ける。そしていつの間にか戸口に立っていた存在を見つけ、ティーは思わず一歩下がった。

「びっくりした……。カイル先に入ってたんじゃなかったの?」
「そうなんですけど」

 ティーと同じく腰にタオルを巻いただけの格好をしたカイルは、見つかって照れたように頭を掻いた。

「中見てみたらティー様居なかったから」
「それでわざわざ出て僕を待ってたの?」

 はい、と頷かれティーは目を丸くする。着替えが遅いのは仕方ないから先に入ってくれても構わなかったのに。
 近づいてカイルの腕にそっと振れると、ひんやりしていた。肌を凝視すれば鳥肌が見える。
 もう、とティーはむくれた。

「身体冷えてるじゃない。風邪引いちゃうよ!」
「オレ、丈夫なのでこれぐらい平気です」

 あっさり言って今度はカイルがティーの手に触れた。

「それよりティー様のが冷えてますよ。ほら、早く入りましょ」
「カイル」
「オレはどんな時でもティー様を一人にさせたくないだけですから。だから待つんです」

 行きましょう、とカイルは戸を開けた。先にティーを行かせ、その後に続く。
 温かい湯気にほっとしながら、ティーはほんの少しカイルに呆れた。これぐらいのこと何とも思わないに過保護だろう。でも、寒いのにわざわざ浴場まで出て待っててくれたことは嬉しかった。
 ティーはカイルにばれないよう頬を緩めて笑う。そして手を振って呼ぶロイの声に答えると、カイルの手を取った。

「行こう。冷えちゃった分しっかり温まらなきゃ」
「のぼせないでくださいよー?」
「分かってるって。過保護だなぁ」

 ティーは振り向いてカイルに言い、そして二人して、笑った。



06/12/22
長い事文章書いてないのでリハビリがてら。
携帯でカチカチ打ちました。
温泉入りたいです。湯舟に浸かりたい………(いつもシャワーの人)