熱い視線を感じて、ティーは振り向いた。ラフトフリートを訪れる度に通る道。その道に立っている同じ年ごろの少女が、顔を向けるティーに顔を赤らめ「王子様」と手を振る。にこやかに手を振り返し、ティーは少女の横を通り過ぎた。

「………ティー様もやりますねー」

 ついてきていたカイルが、熱い頬を押さえる少女を横目に見ながら笑った。ティーはカイルを見て「何が?」と首を傾げる。

「えっ、分からないんですか?」

 カイルは大袈裟に驚いた。少女の反応はあまりにも分かりやすぎていて、ティーも気付いていると思っていた。

「うん、分からない」

 正直に答えるティーに、カイルは「そこまで鈍いのはちょっと減点ですよー」と肩を竦めて額を押えた。減点、の言葉にむっとティーは眉を顰める。どうしてそんな事をカイルにされなければならない。不機嫌に唇を尖らせ、カイルを睨んだ。

「いいから教えてよ」
「ん〜。それはちょっと憚れるって言うか。こういうのは本人の知らないところで勝手に言うもんじゃないんですよ」
「どうして?」
「女の子は夢見がちなところもあるんです」

 何度も会っているのに、気持ちを伝えないところを見ると、少女は言わないつもりなのかもしれない、とカイルは考える。相手は一国の王子だ。王位継承権を持っていなくとも、立場が違い過ぎる。見ていられるだけでもいいのだろう。

「だからオレは言いませーん」
「…………」

 面白くなさそうにティーは仏頂面を作った。自分は分からないのに、カイルだけが分かるのがどうにも気に食わない。
 確かに自分は異性と親しくなる手段など知らない。分からないのも当然だろう。そしてカイルは自分とは逆と言う事も知っている。彼は女性を口説くのがとても上手だ。
 そこまで考え、ティーは以前女性を優しく口説いているカイルを思い出し、眉間の皺を深くする。胸の奥がもやもやして、苦しくなった。
 すっかり怒ってしまったティーに、カイルは困って笑い、頬を掻いた。大人びていても、やはりまだ子供の部分もちゃんと残っている。
 だけど女に手慣れているティー様も嫌だな、と勝手な事を思いつつ、カイルはティーの腕を捕らえて自分の方を向かせ、目線を合わせる。

「じゃあヒントをあげますよ」
「…………ヒント?」

「ええ」とカイルは頷き、真剣な眼差しで言った。

「多分、あの子がティー様に向けているものは、オレが貴方に向けるものと同じです」

 ティーが好きで好きでたまらない。ずっと傍に居てほしい。
 フェリムアル城に本拠地が移ってから、極端に減ったラフトフリートでの滞在。来たとしても用事を終え、見回りを済ませたらすぐに行ってしまう。
 きっと少女は願っているんだろう。どうか今日ティーに会えるように、と。だからティーに会えた日は嬉しさに頬を染め、幸せで一杯になる。----好きな人に会えたから。
 カイルもまた、連れていってもらえない時、同じ事を願っているから。少女の気持ちが痛い程よく分かった。

「なんか………余計に難しくなった気が」
「これ以上は教えられませんからね。さ、行きましょう」

 答えに悩むティーの背を、カイルは押した。釈然とせずティーはカイルを見ていたが、やがて考えを放棄して前を向き、歩き出す。
 それでも考え込むティーの後ろ姿に、答えが出るのはまだまだ先だ、とカイルは見つからないように苦笑した。



06/10/18
ラフトフリートで王子が好きな女の子が居て。きっとその子は城に本拠地が移動してから、王子がいつ来るか待ってるんだろうなあと考えつつ、書いていた話でした。
ビッキーがいると船使わなくていい時が多すぎるから、余計に胸焦がれてるんだろなと。