フェリムアル城を見回りがてら歩いていたティーは、いきなり誰かに後ろを押され、前へつんのめった。驚き振り向くと、トーマがティーの腰に抱き着き見上げている。
「トーマ?」
「なぁ、王子様! 俺とマルーン達のところに行かないか?」
「何かあるの?」
 尋ねると、トーマはティーから離れ、興奮して頬を上気させ、両手を大きく広げた。
「舟作ってるんだ、舟! ちっちゃいやつだけどさ、軽くて、すいすい滑って、俺でも上手に漕げるようになってるんだ!」
 大きい手振りで様子を伝えるトーマに、ティーは微笑ましく笑った。ロードレイクで襲ってきたウルスから助けた時の拒絶から始まって、今ではこんなに打ち解けてきている。
 それでさ、とトーマは一転不安そうに尋ねてくる。
「でさ、もし良かったら、王子様オレと見に行かないか?」
「僕?」
「いやっ、無理にとか言わねえけどさ……。王子様が忙しいの知ってるし。でも」
 俯き爪先で地面を蹴りながら、トーマは顔を上げてティーにしがみついた。
「オレ、王子様と見に行きたいんだ」
「………」
 瞠目して、ティーはその眼を細めた。
「そうだな……、せっかくのお誘いだし、行こうかな?」
「-----やったぁ!」
 ティーの了承を得て、トーマは大袈裟に飛び跳ね喜ぶ。大人ぶってもまだまだ子供なんだなあ、としみじみティーは思った。
「行こう!」とトーマがティーの手を取り走り出す。
「っ、トーマ!?」
「早く行こうぜっ! マルーン達が待ってるからな!」
「そんなに慌てなくてもみんな逃げないよ」
 賑やかな足音が駆けていく。

「----どうかされましたか、カイル様」
 リオンに訊ねられ、隠れてティーとトーマのやり取りを見てしまったカイルは切な気に呟いた。
「いや、あまりの扱いの差に、どうしようかなって悩んでるだけだから」
 こっちがトーマと同じように抱きつくと、烈火のごとく怒るのに。
 ふぅ、と大きく溜め息を吐くカイルに、リオンは意味も分からず、はぁ、と返して首を捻った。




06/09/30
ウェブ拍手に乗せてあったやつです。一つしかなかったので、小話としてアップ。
トーマはまだまだ子供なので色々許される訳なのです(笑)