2主の名前=エレン
城、軍の名前=ウィズグローリィ

で、お送りします。






 ウィズグローリィ城のレストラン。何時も人が絶えず賑やかな場で、ゲオルグは一人黙々とチーズケーキを食べていた。
 ファレナでもよく食べていたが、地域によって微妙に違う味わいに奥の深さを感じつつ、チーズケーキを食べやすいようにフォークで切って、口に運ぶ。
 そう言えば、とゲオルグはふとティーの事を思い出した。今ごろ彼はどうしているのだろうか。総てが終わってから見送られ、それから会っていない。
 大きく手を振る姿は、今でもはっきりと思い出せる。両親を亡くし、妹と国を奪われ一つの軍の主となったティーは、何度も挫け、苦しみながらも総てを奪還する事を成し遂げた。

「ありがとう」

 そう言ってくれた言葉が、耳に残響する。
 屈託のない笑顔。初めてみせた彼らしい表情。
 今のファレナの空の下でも笑ってくれているだろうか。
 たまに会いたいと思う時もあるが、ゲオルグはファレナに足を向ける事はなかった。理由がどうあれ、ティーの母親を手にかけたのは事実。ファレナの人間がゲオルグを悪く言わないとしても、彼自身がそれを良しとしないからだ。
 チーズケーキを口に運ぶ。
 何だかファレナの味が懐かしくなった。


 ふと、外が騒がしくなる。肩ごしに見れば、開け放たれていた扉の向こうに人だかりが出来ていた。まるで見世物でも行なわれているように、時折歓声が上がって、女性の黄色い悲鳴が多く入り交じる。
 フリックやカミュー、マイクロトフがいる時も良く同じ光景にはなっていたが、それ以上の盛り上がりにゲオルグは興味を惹かれた。
 ひょこりと人だかりの中から少年----ウィズグローリィ軍の主であるエレンが出てくる。エレンは、ゲオルグを見つけるなり顔を綻ばせて手を振った。

「ゲオルグさーん。やっぱりここにいた!!」
「エレン……。一体なんだこの騒ぎは」
「ええと、お客さんがやって来まして」
「客?」

 客がやってきたにしては、この盛り上がりは異常じゃないのか。それにどうしてエレンは自分の所にやってくるのか。
 疑問が頭をよぎる。

「それで、その人たちゲオルグさんに会いたいからと言ってたので僕案内してたんです。ちょっと不安でしたけど、良かった」

 胸を撫で下ろすエレンの後ろで、新たに人を掻き分けレストランに入って来た人影が二つ。
 眼を疑った。いやいやそんなまさか。こいつらはファレナにいる筈だろう。遥かに離れたこの地にわざわざくる理由が見付からない。

「ゲオルグさん?」

 固まるゲオルグを、眼を丸くしたエレンが不思議そうに見つめる。

「あー、やっぱりゲオルグ殿だ−! あんまり雰囲気変わってないですねー!」

「チーズケーキ好きなのも相変わらずみたいで!」と、一気に13年前に引き戻されるような底抜けの明るい声がする。
 金色の髪を持つ男が、あの頃と変わらないお調子者の表情でゲオルグを見、破顔した。
 その横で被っていたフードを外し、銀色の青年が男をたしなめる。

「カイル、久しぶりの一言がそれ? もう少しちゃんと考えてものを言ってよ」

 そうして別れた時よりも美しく、母親似に育った彼はゲオルグを見るなり、ふ、と微笑む。

「ゲオルグ……。久しぶりだね、会いたかったよ」
「ティー……。カイル……」

 最早疑う事もない。ついさっきまで思いを馳せていた人間(といつも彼に付きまとっていた存在)が今目の前にいるなんて。夢なんじゃないだろうか。 
 だけど、そっと触れたティーの手は温かくて、本当に彼は目の前に立っていると実感する。

「あれから、全然顔を見せてくれないから心配した。私はゲオルグに色々話したい事があるのに」
「それはお前、分かっているだろう。俺はファレナにはまだ行けない」

 例えティーが今許したとしても、ゲオルグは行く気になれない。ファレナを離れる時に決めた、自分なりのけじめのつもりだからだ。剣を振るう限りは、あの大地に足を踏み入れない。

「そんなの分かってるよ」

 ティーがあっさり言い、カイルが続いて口を開く。

「だーかーら、こっちから会いに来たんじゃないですか!」

 そうして二人は同時に笑い、

「「と言う訳でしばらくここに滞在させてもらうから」」
「……は?」
「ねー、いいですよねー、エレン君」
「あ、もちろんいいですよ! 僕も色々な話聞いてみたいですし!」

 唖然とするゲオルグを余所に、カイルは勝手にエレンに交渉し、エレンもゲオルグの意見すら聞かず快諾する。とんとん拍子に進む話に、頭がついていかない。

「ちょっ、ちょっと待て、俺はまだ良いとは……」
「ゲオルグ」

 ティーがにっこりと壮絶で綺麗な、それはもう母親似の笑みを静かにゲオルグに向ける。ぐと、あまりの迫力にゲオルグは思わず一歩身を引いた。

「嫌だなんて……、言わないよね?」
「…………」

 ああ全く、強くしぶとく成長したものだ。フェリドもアルシュタートも、きっとわが子の成長を喜ばしく思っているだろう。だけど、些かその成長の方向が間違っている気もするが。
 そんな風に言われたら嫌とは言えず、ゲオルグは「……分かった」と渋々了承する。
「これから賑やかになりそうですね!」と、隠さずにはしゃぐエレンが少し憎らしかった。この二人が来たら賑やかなんてもんじゃなく、それ以上になってしまうだろう。何時か、彼らと肩を並べて闘った時、それを嫌と言う程知っているから。

「また楽しくなりそうですねー。ゲオルグ殿!」

 そう言うカイルが、エレン以上に憎らしく思えた。

 


06/03/26
ティー様はあれです。カイルのお陰であんなになったんですよってことで。(しぶとく強く)
そしてどこまでもかいねぎです。