ゲオルグが扉を開けると、そこには何故か女装をしていたカイルと虚ろな目をして笑うリオン、それにティーの身ぐるみを剥がそうと嬉々としているミアキスがいた。
 夢か。
 ゲオルグは扉を閉め、一度深呼吸をする。さっき開けたばかりの扉をよくよく確認するが、やっぱり所用で訪れたティーの部屋に間違いない。
「ちょっ、ミアキス! 何処触ってるの!」
「やっぱりぃ、王子の肌ってスベスベですねえ。思ってた通り白すぎるしー」
「わっ、そこは……って」
 ティーの悲鳴が響く。カイルの笑い声も混じって、閑静な太陽宮の廊下は扉を突き抜けて騒がしい。
 ゲオルグは顳かみを指で押えて溜め息をついた。全く、どうしてこいつらは集まるとこうも五月蝿くなるのか。そこらの子供の集まりと同じだ。
 あまり入りたくない気分だが、そうもいかない。ゲオルグはしばらく躊躇っていたが、仕方ないと腹を決め、再び扉を開ける。
「おっ、ゲオルグ殿!」
 やっぱり夢じゃなかったカイルの女装に、ゲオルグは軽く頭痛を起こす。体格のいい男が来ている服はもちろんサイズは合わず、両手足が大きく生地からはみ出ていた。それでもカイルは気にせずに笑っている。いやそれ以前にどうしてそんな格好をしているのか。
「………何をしている?」
 ようやくそれだけを口から絞り出した。
「ああ、これ?」
 カイルは服の裾を摘み、その場で一回転する。ふわりとスカートが捲れ、気持ち悪いとゲオルグは視界からそれを排除した。
「本当は姫様への贈り物だったらしいんだけどさー。手違いでティー様ぐらいのサイズが来ちゃったんだよねー、服」
「で、それを見て、ミアキス殿が………」
 リオンが力なくティーたちの方を見る。ゲオルグもそちらに視線を向け、一気に疲れがのしかかってきた。
「面白がって今に至る、と言う訳か」
「はい………」
 一仕事を終えて、にこにこ笑うミアキス。かなりの出来映えにかなり満足そうだ。
 おもちゃにされ、見た目見事なお姫さまになってしまったティーは、ふるふる震え顔を羞恥で真っ赤にさせる。
「悪夢だ……。何で僕がこんな格好を……!」
「でもぉ、似合ってますよ」
「嬉しくない!」
「俺は嬉しいでーす!」
「カイルが嬉しいのはもっと嬉しくない!!!」
 髪を掻きむしるティーの頭には、花を彩った髪飾りがしゃらりと光る。よくよく見れば、服にも高価な宝石が幾つも鏤められ、正に今のティーは誰がどう見ても『お姫さま』だと思ってしまうだろう。
 黙っていればの話だが。
 ほう、とゲオルグは感嘆の息をつく。
「……しかし、こうして見ればティーは母親似だな」
 父親似でなくて良かった。でなければ今、壮絶なものを見ていたかもしれない。しみじみ頷くゲオルグに、リオンも同意する。
「そうですよね……。姫様が見たらきっと大騒ぎしそうですし」
「で、何でカイルまであんな格好をしているんだ?」
「ティー様、女装を思いっきり嫌がってたんですよ」
「それは当たり前だろうな」
 じゃなければ、あんなにティーは抵抗したりしないだろう。
「それで?」と促すとリオンは、
「カイル殿が女装したら、自分もしてやるって王子が言って。そうしたらカイル殿はあっさり着替えたから、王子物凄く焦ったんです。多分、カイル殿がするはずないだろうと思ってて」
「当てが外れた訳だ」
 深々と溜め息を付き合った二人を余所に、カイルとミアキスはティーに夢中だ。きらきら面白いものを見つけた子供の目をしている。
「ティー様可愛いですぅー。今日一日この格好でいません?」
「お断り」
「だったら、脱がして差し上げますよ。俺の部屋に行きません?」
「そっちはもっとお断り!!!」
 怒っていくティーを、分かっていてカイルとミアキスはからかっている。この分だとティーの怒りは爆発するのは容易い。だが、二人はそれすらも面白がるだろう。
 ミアキスは兎も角、カイルがそうするのは、
「好きな人間程苛めたい、か………」
「ゲオルグ殿?」
「ああ、何でもない。それより逃げるか。お前も巻き添えを喰らいたくないだろう」
「え、でも……。ゲオルグ殿何か用事があって来られたのでは?」
「………まぁ、後でもいいだろう。行くぞ」
 ゲオルグは、騒がしいティーたちの様子をおっかなびっくり窺うリオンの背を押した。

 閉じられた扉の向こうで、ティーの怒声が廊下まで大きく響いた。



06/03/06
リクエストネタ ミアキス+王子(+カイル)
ゲオルグ視点でお送りしました……ってちゃんとなっているでしょうか。
リクエストをくださったもげこ様に捧げます。
からかう事に命を懸ける女王騎士二人。
アホネタですいません。