「ああーっ!! ゲオルグあんた何やってんだ!!!」
 開口一番、テラスにやってきたカイルは大声を出した。広い空に声が木霊する。ばさばさと遠くで鳥が羽ばたいた。
「カイル、五月蝿いよ」
 フォークを口に運んでいたティーが、不服を漏らす。
「すいませんティー様」カイルはティーにすぐ謝るが、ゲオルグに視線を向けなおすとすぐに不機嫌を露にする。
「けど、どうしてゲオルグがこんな所にいるんですか」
「お茶を飲んでいるんだが」
 しれっと答え、ゲオルグがティーカップを手に取り煎れたてのお茶を飲む。ティーお手製の紅茶で、たっぷり入れた蜂蜜のせいかとても甘い。
「どうかな。僕の煎れた紅茶。美味しい?」
「----ああ。王子は茶を煎れるのが上手いな」
「ありがとう! ほら、ケーキもあるから遠慮なく食べて」
 かいがいしくゲオルグの皿に、ケーキを取るティーの姿を見て、カイルは悔しさに震える。そして、目の前で繰り広げられる甘い一時(カイル視点)から目を反らした。
「俺だって、まだそんな事してもらった事ないのに……!」
「………?」
 思いきり勘違いをしているカイル。ティーとゲオルグは顔を見合わせ、首を捻った。一体彼は何を言っているのだろう。
「ちくちょう。………うらやましい………っ!!!」
「あっ、カイルっ」
 脱兎の勢いで出ていったカイルに、ティーは腰を浮かせた。だが声は届かず、彼はそのまま姿を消す。ティーは仕方なく再び腰を降ろした。
「……別に五月蝿くしなかったんなら、お茶も煎れてあげるし、ケーキだってたっぷりあるのに。変なカイル」
「まぁ、放っておけ。落ち着いたら戻ってくるだろう」
 カイルが取り乱す理由を知っているゲオルグは、落ち着いたまま飲み終えたティーカップを、ソーサーに戻した。わずかに残った紅茶が、琥珀色に空を映す。
「王子、良かったらおかわりをくれないか? この味、気に入った」
「本当ですか!? じゃあ喜んで煎れますよ!」
 誉められて嬉々としながら、紅茶を煎れなおす王子を見て、逃げなかったらこの王子が見れただろうに、と金髪の剣士に内心言いながら、カップに注がれていく紅茶を見つめた。



05/12/21
十数分後、いじけながらもカイル参上。
「俺にも、ください」